連載

第5回

自殺対策でつながる地域社会
~生き心地のよい地域社会をめざして~

うつ・自殺予防啓発運動in上越

 新潟県は、自殺死亡率の高い地域でもあり自殺予防に関する啓発や相談を行う民間団体の事業や活動に補助金を交付している。この補助金を活用して、地区労福協が自治体や福祉団体、NPO・市民活動団体等へ呼びかけ、2011年から連続して6年間、自殺予防や啓発を目的としたシンポジウムを県内各地の持ち回りで開催してきた。

 開催の主旨は、格差と貧困、過疎化や高齢化、人口減少が加速していく時代(社会)の中にあって、さまざまな問題を抱え生きづらさを感じている人たちが増えている。こうした現状をふまえ、自らの住む地域課題と向き合い、住みやすい地域社会をつくる、そのことをコンセプトに地域の人たちとシンポジウムの企画をしてきた。

 毎年、開催地は変わっても、「生き心地のよい地域社会をめざしてin○○」を共通テーマとして掲げ、毎回、NPO法人ライフリンク代表/清水康之氏にシンポジウムへの協力要請を行い、基調講演やパネルディスカッションのコメンテーターをお願いしてきた。
清水代表は極めて多忙な人だけに日程調整に四苦八苦し、かなりのエネルギーを消耗した。清水代表には、6年連続して出演を依頼し続けてきた。たぶん労福協は変わった団体に映ったかも知れない。しかし、「継続は力なり」。

 毎年、各地ではシンポジウムを成功させるため数回の実行委員会が重ねられた。その中で人とひとのつながりから組織のつながりへとネットワークは拡がってきた。いま地域は、生活困窮者、子どもの貧困、ひきこもり、高齢者、ひとり親世帯などが抱える多くの課題がある。行政や福祉機関・団体、支援団体だけでは律し切れない課題が数多く存在している。

 このシンポジウムは、県内一回りして2016年度に最終回(第6回)を迎えた。この間の評価、反省も含めた集大成として労福協の膝元である新潟市で開催した。労福協が過去にシンポジウムを開催してきた自治体からのアンケートでは、目に見える成果とまではいかなくとも、すべての自治体で自殺者の減少が見られたことと実行委員会を通じて培った団体間の連携が深まったことが報告された。自殺対策だけでなく、改めて地域社会の再生をめざし地域ぐるみで、つながっていくことが大切ではないかと思える。

 この事業を通じて思ったことは、県内自治体の首長や担当者の真剣度が自殺対策の取り組みへの温度差となって現れていること。そして、14年連続して3万人を超えていた自殺者数が、ここ数年、2万人台へと下がり、さらに減少傾向にあるということ。このことは2006年に自殺対策基本法が制定され、各地で様々な団体の自殺対策が進み、その成果が表れてきたこともあるが、やはり自治体が本気になってリード役を果たしていくことが大切であることを痛感した。

山田 太郎 さん

一般社団法人 新潟県労働者福祉協議会 前専務理事

新潟県長岡市生まれ。JP労組新潟連絡協議会議長を経て、2011年6月から6年間、新潟県労福協専務理事に就任。厚生労働省の委託事業として、生活困窮者自立支援事業(パーソナル・サポート)や寄り添い型相談支援事業(よりそいホットライン)を受託。
その過程において毎日の食事にこと欠く相談者への食糧支援の必要性を感じ、民間団体と一緒に「フードバンクにいがた」を立ち上げ、現在も活動に携わっている。

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