活動方針

2024~2025年度活動方針

はじめに

 政府は新型コロナウイルス感染症について、2023年5月8日から感染症法上の位置づけを「5類」に引き下げ、経済活動の完全な再開をはかるなど、ポストコロナ社会への移行を推進しています。しかしその一方で、長期にわたるコロナ禍の影響は、これまでに不安定な雇用にあった方や、生活基盤が盤石ではなかった方など、辛うじて生活を成り立たせていた方を直撃し、貧困や格差の拡大をさらに深刻化させました。加えて、昨今の物価上昇により日々の生活が苦しくなり、今後の自助による備えなどは難しいと言えます。また、たとえそれが可能であったとしても、自助だけでこのような危機は乗り越えることが難しいことは、コロナ禍において当事者が、ひいては社会が、身をもって体験したことです。社会のセーフティネットを再び張り巡らせ、いずれ想定される次の感染症のパンデミックや、経済不況や失業といったくらしに大きな影響を及ぼす課題などを意識し、苦しむ人が再び社会に溢れてしまうような過ちを繰り返さないようにしなければなりません。そのために公助のあり方を見直すとともに、共助の力を発揮することが求められています。
 これは、SDGsがめざす「誰一人取り残さない持続可能な社会」や、中央労福協が2030年ビジョンで掲げためざす社会像、「貧困や社会的排除がなく、人と人とのつながりが大切にされ、平和で、安心して働きくらせる持続可能な社会」の実現に必要不可欠な要素とも言えます。したがって、中央労福協と加盟組織はゆるやかな横のつながりの中にあっても密接に連携し、これまで取り組んできた課題の解決をさらに進めていかなければなりません。
 加えて、国際的にも注目されている社会的連帯経済(Social and Solidarity Economy 以下、SSE)は「つながる経済」とも言われ、利益最優先ではなく、人びとのつながりや支え合い、社会や環境との調和を大切にする経済活動で、公正で人間的な経済をめざすオルタナティブな運動として社会から期待されており、中央労福協とその加盟組織はその担い手となります。2023年度より開講したオンライン連続講座を一つのきっかけとしながら、改めて2030年ビジョンを展望し、「今こそ労福協の出番」という情勢認識をさらに高めていく必要があります。そのためには、労働組合と協同組合が連携・協同し、労働者自主福祉運動や協同組合運動などの共助の輪を広げること、また、中央労福協や加盟組織との距離が遠かったNPOや市民団体などともつながりながら、地域の様々なネットワークで支え合い助け合う地域共生社会の構築をめざすことが求められています。この点の認識を新たにし、多くの団体や様々な世代とのつながりを広げていきます。
 以上のスタンスを念頭に今期は、従来から取り組む奨学金制度改善・教育費負担軽減の取り組みについて、さらに運動として発展させていきます。また、相談事業にとどまらない勤労者の拠りどころ機能(ライフサポート活動)の強化や、ポストコロナ社会におけるセーフティネットの再構築、協同組合や労働組合を基軸としたSSEの担い手としての社会的課題解決に向けた連携の強化、事業団体・労働団体・地方労福協のさらなる連携などをすすめていきます。中央労福協が今、社会から求められている役割は、持続可能な社会をコーディネートしていくことです。2022~2023年度の活動方針を継承しながら以下、2024~2025年度の活動を進めていきます。

Ⅰ.安心して働きくらせる社会をめざして

〔2030年ビジョン①〕

多様なセーフティネットで、働くことやくらしの安心を支えます。

1.社会保障制度の充実と所得再分配機能の強化をめざして

 超少子・高齢、人口減少、不安定雇用労働者の増加、家族形態の変化など、経済・社会構造の変化に対応するための社会保障制度と、格差を是正し貧困のない社会をつくるための所得再配分の機能の強化をはかるために政策・制度要求を行います。

2.貧困や社会的排除のない社会に向けて

(1)ディーセントワークの促進と公正なワークルールの確立
  • ① すべての働く人が安心して働き続けるためには、ディーセントワークの確立が不可欠です。そのため、最低賃金の引き上げ、長時間労働の規制強化、均等待遇など真の働き方改革を実現するよう政府に求めていきます。また、労働法違反への罰則強化と、あらゆる規模の企業に対して労働法制の周知と遵守の徹底をはかるよう働きかけます。
  • ② 障がい者が安心と働きがいを持って働ける場を拡充するよう政府に求めます。
  • ③ 多様な雇用・就業形態で働く人たちのディーセントワークを確保するためのワークルール確立を政府に求めていきます。また、フリーランスやギグワークなどとして働く人が直面する実態や問題点、その労働者性をめぐる法整備のあり方など、学習会を通じて理解を深めていきます。
  • ④ すべての外国人労働者の人権が保障され、日本人と同等の賃金・労働条件が確保されるよう、政策・制度要求を行っていきます。
  • ⑤ あらゆるハラスメントを許さない職場・地域・社会づくりに取り組みます。
  • ⑥ 複数の地方労福協が実施している高校・中学校への労働問題に関する出前講座など、教育活動の推進に取り組みます。また労働法の周知をはかるため、日本ワークルール検定協会との連携を進めます。
(2)人間の尊厳が保障される生活保護制度への改善
  • ① 生活保護基準を改定するにあたり、現行採用されている検証方法は、「貧困のスパイラル」に陥る可能性があることから、「新たな検証方法」を早急に確立するよう求めていきます。
  • ② 昨今の物価高騰により生活保護利用者の経済状況の悪化が予想されることから、生活保護水準を引き上げるよう求めていきます。
  • ③ 社会保障の脆弱さが生活保護制度に過度に負荷をかけている制度のあり方全般を見直すとともに、「生活保護法」から「生活保障法」への改正をめざし、人間の尊厳が確保され利用しやすい制度への改善に取り組みます。
  • ④ 日本では、生活保護が必要な世帯のうち現に生活保護を利用している割合(捕捉率)は2割程度に過ぎず、水際作戦や親族への扶養照会が利用抑制の原因となっています。支援が必要な時に適切に生活保護を利用できるよう、水際作戦の根絶、扶養照会の運用や制度の改善、制度の周知広報を求める政策要求活動を進めます。また、生活保護への誤解や偏見をなくし、国民の権利であることが浸透するよう、啓発活動に取り組みます。
  • ⑤ 生活保護行政の公的責任や業務拡大・高度化などを踏まえ、正規職員によるケースワーカーを増員するとともに、職員の専門性を高めるよう求めていきます。
  • ⑥ 貧困の根絶と格差の是正に向けて、「生活底上げ会議」などを通じて、市民団体、法律家などと連携し、広範な運動とネットワークづくりや啓発活動、政策提言などに取り組みます。
(3)貧困の連鎖・子どもの貧困の解消

 貧困の連鎖を断ち切るため、子どもの視点を大切にした抜本的な貧困対策の推進について求めていきます。また、関係団体との連携も視野に課題の発信を行うなど、社会的な意識啓発を進めます。

(4)多重債務対策の強化
  • ① インターネット上のショッピングやゲーム、ギャンブルなどへの依存症から多重債務に陥るケースやコロナ禍による収入減少、光熱費などの高騰による生活費の圧迫が要因で、多重債務に陥るケースが増えています。労金が行う「生活設計」「生活改善」「生活防衛」の三本柱による生活応援運動と連携するなど、引き続き関係団体と多重債務問題解決に向けた取り組みを進めていきます。
  • ② 改正貸金業法の定める総量規制の対象外である銀行カードローンに起因する過剰融資について引き続き動向を注視し、労金や関係団体などとも連携し啓発活動をはじめ法改正も含めた必要な対応をはかります。
  • ③ カジノを含む統合型リゾート施設(IR)の整備計画については、ギャンブル依存症や多重債務に繋がるとの懸念が示されています。関係団体と連携して現状を把握するとともに、問題点の検証と必要な見直しを求めます。
(5)自殺のない社会に向けて

 厚生労働省と警察庁が公表した2022年度の自殺の状況から、自殺者は21,881人で前年度より増加し、特に小中高生の自殺者が514名と過去最高となりました。「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現」に向け、自殺総合対策大綱にもとづく実効性のある自殺対策に向けて政策・制度要求を行います。

3.学びと住まいのセーフティネット

(1)奨学金制度改善・教育費負担軽減の取り組み

 中央労福協が設置した研究チームが「教育費負担軽減へ向けての研究会」における「高等教育負担軽減へ向けての研究チーム」が発表した「高等教育費の漸進的無償化と負担軽減へ向けての政策提言」を踏まえ、引き続き、第3期「奨学金制度改善・教育費負担軽減」運動(2021年4月~)に取り組みます。
 運動を進めるにあたっては、これまでの奨学金制度改善、教育費負担軽減の取り組みは継承しつつ、さらに発展させていく立場から次の4つの課題に重点的に取り組みます。

  • ① 「高等教育の漸進的無償化」を実現するため、日本の高等教育への公的予算の対GDP比をOECD諸国平均並みに引き上げ、「大学・短大・専門学校の授業料を半額とする」「大学等修学支援法の対象者を中間所得層まで拡大する」ことを中長期戦略に据え、その時々の局面や政府の施策の動向に応じて取り組みを進めます。
  • ② 2024年度から実施予定の大学等修学支援制度の改定や大学院などへの授業料後払い制度の導入に対しては、実施状況を検証しつつ制度改善を求めていきます。また、授業料半減を目標とした教育費の負担軽減や、少子化対策の集中期間である3年以内に年収600万までは多子世帯などに限定することなく大学等修学支援制度の支援対象とすることをめざし、世論喚起や国民的な運動に取り組みます。
  • ③ 日本学生支援機構の奨学金制度について、「有利子から無利子へ」「貸与から給付へ」「貸与型奨学金制度の改善、返済者の負担軽減」に向けた改善がはかられるよう、引き続き取り組みを進めます。
  • ④ 「高卒就職者や社会人の学びなおしのための職業教育の充実」「職業訓練と進学のニーズを満たす公立のコミュニティ・カレッジの設置」に向けて、関係団体とも連携し現状の施策や制度について実態把握や情報収集を進めます。
  • ⑤ 労働者自主福祉の取り組みとして、各地域において行政や法律家などの専門家と連携して奨学金に関する相談に対応できるよう、奨学金返済にかかる情報周知をはかります。
(2)住宅セーフティネットの拡充
  • ① 「住まいは人権」との観点から、福祉・住宅政策の連携や住宅セーフティネットの再構築をめざします。
    • a) 住居確保給付金の制度改善や再編により、公的な住宅手当制度(普遍的な家賃補助制度)の創設をめざして取り組みます。
    • b) 改正住宅セーフティネット法の施行後5年の見直しを早急に行い、必要な法改正や、実際に利用できる登録住宅の拡大、家賃の低廉化につなげるための予算拡充や制度改善を求めて取り組みます。
    • c) 住宅確保要配慮者に対する住宅の提供と家賃補助・住宅債務保証の拡充、賃貸住宅居住者への税制支援などを求めて制度改善に取り組みます。
  • ② 研究者と実践者による「学びと住まいのセーフティネット」研究チーム」(主査:大内裕和武蔵大学教授)による検討成果を政策提言に取りまとめ、提言をもとに世論喚起などの取り組みを進めます。
  • ③ 地域における居住支援協議会の設置、居住支援法人の指定や活動を促進するため、全国居住支援法人協議会と連携して取り組みます。
  • ④ 生活困窮者を食い物にする「貧困ビジネス」(追い出し屋、脱法ハウス、無料低額宿泊所による生活保護費のピンハネなど)の根絶、規制強化をめざします。

4.消費者運動との連携

  • (1) 消費者被害の防止・救済や、中央・地方消費者行政の支援の強化、消費生活相談員の処遇改善、消費者教育の促進に向けて、消費者団体をはじめとする関係団体と連携し、財源の確保や施策の強化・改善などについて政策・制度要求を行います。あわせて、地方労福協の自治体要請などを通じて、自治体消費者行政の自主財源確保の拡充を求めます。
  • (2) 公正な取引を担保するため、サプライチェーン全体における労働環境への理解を促す消費者教育や、複数の地方労福協が実施している消費者問題に関する講座などの推進に取り組みます。また、雇用・労働を含む人や社会・環境に配慮したエシカル消費を促進していきます。

5.持続可能で、安心してくらせる社会に向けて

(1)大規模災害からの復興・再生と防災・減災の取り組み
  • ① これまで全国各地で発生した地震や集中豪雨、台風などの大規模自然災害により被害を受けた方々への支援や地域の復興・再生、原発事故に起因する福島県固有の課題など、未だ残されている多くの課題への対応に対して、東日本大震災を教訓にしながら引き続き関係省庁に対して政策・制度要求を行います。
  • ② 今後、全国各地で起こりうる自然災害や南海トラフ地震、首都直下型地震を想定し、多発する大規模災害リスクへの対処およびコロナ禍における対策に対して、関係省庁、自治体要請を強めます。
  • ③ いざという時の備えや大規模災害を乗り越える地域コミュニティの再生および平時の福祉と災害時の危機管理の連結、災害に便乗した悪質商法への注意喚起など、災害リスクを最小限に止めるために、関係団体と連携し、啓発活動を進めていきます。
  • ④ また、「被災者生活再建支援制度」の一部改正(2020年11月30日成立)では不十分なため、関係団体と連携しさらなる制度拡充に取り組みます。また、こくみん共済 coopの「防災・減災運動」を展開するとともに、被災時の生活再建に必要な自然災害共済への加入促進を進めていきます。
(2)持続可能な地球環境に向けた取り組み

 気候変動はすべての生物の生存基盤を揺るがしかねない「気候危機」と言われています。また、気候危機と相互に影響し合うと言われている生物多様性の損失も喫緊の課題です。私たちはSDGsの目標達成に貢献し、将来に渡って持続可能な地球環境を繋いでいくため、長期的な目線で取り組みを進めます。

  • ① 私たち一人ひとりが問題意識を高め、自分ごととしてとらえて取り組んでいくため、気候危機をはじめ地球環境に関わる問題についての学習の機会を設けるとともに啓発活動に取り組みます。
  • ② (一社)地球温暖化防止全国ネット(JNCCA)をはじめとする関係団体と連携し、加盟団体に対して、自らのライフスタイルを見直し、環境省が国民運動として取り組む「脱炭素につながる新しい豊かなくらしを創る国民運動(デコ活)」を広げます。
  • ③ 持続可能な循環型社会の構築をめざし、連合・中央労福協・労金協会・こくみん共済 coopと連携し、「環境・社会フォーラム」を通じて、社会に対して啓発活動に取り組みます。
(3)食品の安全、食料・農業問題

 生協や消費者団体と連携し、食品の安全の確保や表示に関する政策・制度改善に取り組むとともに、食品の安全や食料・農業問題に関する学習、食育を通じた食生活の改善、地産地消の推進など息の長い取り組みを進めます。

(4)平和問題

 安心して働きくらすことができる紛争のない平和な社会(世界平和)をめざし、関係団体の行動とも連携していきます。

Ⅱ.労働者福祉事業の促進と共助の輪の拡大

~ 労働運動と労働者福祉事業の「ともに運動する」関係の強化

〔2030年ビジョン②〕

労働組合と協同組合が連携・協同し、共助の輪を広げ、すべての人のくらしを生涯にわたってサポートします。

1.協同組合の基盤強化と社会的価値の向上

  • (1) 協同組合は、SDGs達成やSSEの担い手として国連をはじめ世界的に期待が高まっています。協同組合がその独自性を活かし、社会的役割を果たして日本と地域の持続可能性に貢献できるよう、協同組合に配慮した税制の継続や法制度の改善など、健全に発展できる政策を政府に求めるとともに、協同組合間協同を促進し、力量の向上に努めます。
  • (2) また、協同組合や労働組合を基軸とし、NPOや市民団体、社会的企業とのつながりを深めるなど、SSEの担い手として、社会課題解決に向けた連携を強化します。
  • (3) 地域共生社会の構築に向けた協同組合の役割発揮、協同組合の社会的認知度向上に向けて、加盟団体会議の開催など、加盟事業団体間の連携を促進します。また、協同組合間協同の促進をめざし、日本協同組合連携機構(JCA)と引き続き連携します。

2.労働者福祉事業と労働組合の連携強化 ~「ともに運動する」関係づくり

  • (1) 労働組合と事業団体が「ともに運動する主体」として関係を強化するため、引き続き労働者自主福祉事業や協同事業の今日的意義や社会的価値への理解を広げるための取り組みを進めます。
  • (2) 加盟団体相互の連携と協力関係の強化に向けては、加盟団体会議などにおいて、相互利用・好事例共有をはかります。また、労金、こくみん共済 coopと連携し、労働団体との連帯を深めるためにさらなる関係強化を促進します。
  • (3) 中央・地方労福協は、自らの活動が事業団体の利用促進や支援につながっているかどうか自己点検を行い、相互の信頼をより確かなものにするよう努めます。こうした信頼関係のもと、地方労福協が安定した活動の継続ができるよう、加盟団体に引き続き理解を求めていきます。

3.共助の輪の拡大 ~ 誰ひとり取り残さない社会に向けて

  • (1) 中小・零細企業、非正規や多様な雇用形態で働く人たち、さらには外国人労働者など共助の輪に参加できていない人たちへの福祉事業の利用を広げるための受け皿や制度開発などについて、関係団体と連携し検討を進めます。
  • (2) 地域における協同組織(組合)や福祉事業団体を利用することで得られる「循環型の助け合いの仕組み(支援やカンパによる基金化など)」づくりについて、関係団体と連携し検討します。
  • (3) フリーランスなど多様な雇用形態の労働者を支えるため、関係団体と連携をはかり、情報提供などの取り組みを進めます。

Ⅲ.支え合い、助け合う地域共生社会づくり

〔2030年ビジョン③〕

地域の様々なネットワークで、支え合い、助け合う地域共生社会をつくります。

1.ライフサポート活動の推進強化

  • (1) 2022年10月実施の「ライフサポートセンターの運営・活動に関する調査」結果から連合労働相談の集中化に伴う影響はおおむね解消されていることが明らかになったため、引き続き、連合と連携しながら労働相談との日常的な業務連携を円滑に進めていきます。
  • (2) ライフサポートセンターは、今後も地域の特性や実情を活かした活動を展開するとともに、各地方で取り組まれている様々な事業や活動の好事例を参考にしながら、中央労福協・連合・労金協会・こくみん共済 coopが確認した「4団体確認事項(2015年5月25日)」の内容を着実に推進していきます。
  • (3) ライフサポート活動においては、労福協加盟団体、行政、専門家などとネットワークを広げ、地域住民の様々なくらしのニーズに対応し、困り事の解決をサポートします。また、居場所や生きがいづくり、未組織労働者や高齢者などに共助の輪を拡大していくなど、相談事業にとどまることなく勤労者の拠りどころとしての機能を高めていくことをめざし取り組みを進めていきます。
  • (4) ライフサポート事業の安定的な運営、基盤強化、先進事例の共有化などを地方労福協と共有します。
  • (5) 中央段階においては、関係4団体(中央労福協・連合・労金協会・こくみん共済 coop)での連携を継続し、「地域に根ざした顔の見える運動」の推進のため、ライフサポートセンターが担う機能について、「今後のあり方についての方向性(2023年7月確認)」にもとづいて具体的対応策を検討します。
  • (6) 複合的な相談やメンタルヘルス、消費者被害など相談内容が多岐にわたっています。相談員のスキルアップをはかるため研修・経験交流会を開催します。将来的には4団体による合同研修会の開催をめざします。

2.地域共生社会づくりに向けて

(1)「地域共生社会」の推進
  • ① 「地域共生社会」の実現に向けて、行政に共助や共生を支えるための公的な責任(共生保障)を求めつつ、協同組合やNPO、地方労福協が連携・協働して、より能動的な主体者として関与していくことをめざします。
  • ② 自治体と非営利・協同組織との関係を、単なるコスト削減や下請け型の業務委託ではなく、目的や基準(公正労働基準)を明確にしたうえでの対等なパートナーシップにもとづく協働の関係づくりをめざします。
  • ③ 社会福祉法等改正に伴い2021年4月にスタートした重層的支援体制整備事業が、「断らない相談支援、参加支援、地域づくり」という本来の趣旨に添って定着・発展できるよう、地域の実情に応じて取り組みます。また、地域共生社会づくりに向けた行政の動向に対応し、それぞれの強みを活かした地域全体での相談・支援体制の強化やネットワークづくりに取り組みます。
(2)生活困窮者自立支援制度の拡充と生活・就労支援の強化
  • ① 生活困窮者自立支援法の「施行後5年の見直し」を踏まえて、速やかに必要な法改正と制度・運用の改善を進めるよう政府・国会に働きかけます。
    • a) 就労準備支援事業と家計改善支援事業の全自治体での完全実施を速やか達成 するとともに、一時生活支援事業、子どもの学習支援・生活支援事業も含めた任意事業を次期改正で必須化し、補助率も引き上げるよう働きかけます。
    • b) 「人が人を支える」制度を持続させる根幹として、委託契約にあたって支援の質や実績を総合的に評価することや、相談員・支援員の雇用の安定と処遇の改善を求めます。
    • c) 就労支援期間中の生活支援給付、交通費などの実費支給、住居確保給付金の拡充など、支援を実効化するための制度改善に取り組みます。
  • ② 地域で支える体制をつくるため、優先発注などの仕組みを活用するなど、受け皿となる認定就労訓練事業所を促進するための環境整備を行政に要請します。労福協においても、先進事例を共有しつつ、就労準備支援事業や就労体験・訓練・働く場の確保や居場所づくりなどに、労働組合、協同組合、NPOなどと連携して取り組みます。
  • ③ 生活困窮者自立支援や就労支援を行っている労福協、事業団体、関係団体と「生活・就労支援連絡会議」を開催し、各地の実践の経験交流や情報交換、政策・制度改善の検討などを行います。
  • ④ 生活困窮者自立支援全国研究交流大会(主催:一般社団法人 生活困窮者自立支 援全国ネットワーク)への労福協関係者の参加を促進し、自治体・支援者・研究者などとの交流や、制度改善に向けた連携をはかります。また、労福協で生活困窮者自立支援に携わる相談員・支援員の経験交流の場をつくります。
(3)社会的孤立への対応や就職氷河期世代への支援

 経済的な貧困とともに社会的孤立も広がり、家庭や学校、職場、地域に自分の「居場所」がない人たちが増えています。孤立死、「引きこもり」の長期化・高年齢化、8050問題、就職氷河期世代への支援など、多くの対応すべき課題もあります。
 こうした課題について、中央労福協も参加する「孤独・孤立対策官民連携プラットフォーム」などを通じて情報収集や共有を行うとともに、労働者自主福祉としてできることの検討も含め、支援がより充実したものとなるよう関係団体と連携して取り組みます。

(4)フードバンク活動や子ども食堂の普及・促進
  • ① 政府の「食品ロス削減基本方針」(2020年3月31日閣議決定)にもとづき、「フードバンク活動の基盤強化」に向けた支援措置の具体化・予算化を国や自治体に働きかけ、公的支援の先進事例を広げます。また、フードバンク団体と連携し、食品寄付に関する責任を免責する制度の創設など、フードバンクへの食品提供を促進するための法整備に取り組みます。
  • ② 食品ロス削減に加えて、生活困窮者自立支援制度や様々な福祉施策との連携や、災害時における食料支援システムとしての活用などの観点からもフードバンクを積極的に位置づけ、省庁横断的な施策の推進をはかるよう、政策・制度改善に取り組みます。また、フードバンク団体のネットワークなどとも連携しつつ、啓発活動や普及・促進に取り組みます。
  • ③ フードバンク活動は、食の支援を通じた支え合いの地域づくりや、安心してくらせる地域のインフラとして重要な役割を果たしています。ライフサポート事業の機能強化やネットワークづくりの面からも、地方労福協と地域のフードバンクとの連携やフードドライブ、フードパントリーなどを含めた食の支援活動を促進し、取り組む地域も現在の31労福協からさらに広げていくことが求められています。このため、フードバンク活動に関する労福協関係団体の情報交換会を開催するなど各地の取り組みの経験交流や相互の連携を深めるとともに、新たにフードバンクとの連携に取り組む地方労福協への啓発や情報提供などに取り組みます。
  • ④ 子ども食堂に関する労福協関係団体の取り組み事例などを情報収集しながら、活動の普及・促進に取り組みます。
(5)介護サービスの体制整備

 介護労働者の安定的な確保や、介護離職・介護者の孤立防止、ヤングケアラー支援、地域包括ケアの推進などについて、継続した政策・制度要求の実施を検討します。

(6)子ども・子育て支援
  • ① 児童虐待の防止、待機児童問題の解消、民間保育事業に関する保育の質の維持に向けた国による適切な監督について、継続した政策・制度要求の実施を検討します。
  • ② 「2030年ビジョン」で掲げた持続可能な社会の実現をめざし、全国研究集会などにおいて「子どもの未来」に焦点をあてた議論を深めます。また、この分野における今後の労福協運動で取り組むべき領域に関して、調査・研究を進めます。
(7)退職者・高齢者の社会参加の推進

 高齢者の単身世帯や生活困窮者が急増するなかで、特に雇用における男女の不平等がもたらす高齢単身女性の貧困が社会問題になっているなど、地域での寄り添いや見守りがこれまで以上に必要となっています。そのため、これまで「支えられる側」であったシニア世代が、多様で多彩な能力や技能を地域社会で「支える側」として役割が発揮できるよう環境整備に向けて退職者団体と連携します。
 また、高齢者の健康・生きがいづくりやボランティアなど、様々な地域コミュニティへの参加の拡大に向け、関係団体とともに地域のライフサポート活動と連携した取り組みを進めます。

3.すべての働く人たちへの福利厚生の充実

  • (1) 大企業と中小・零細企業の福利厚生制度の格差を是正し、労働形態を問わず、すべての働く人たちへの福利厚生を充実させるための法整備を求める政策・制度要求を行います。
  • (2) 中小零細・未組織勤労者・非正規雇用で働く人たちの福利厚生の充実をはかるために、こくみん共済 coopや労金の各種制度・商品の周知や教育研修などを通じて、共助の輪の拡大につながるよう、加盟団体間の相互連携を進めます。
  • (3) 地方労福協においては、地域の中小・零細企業の福利厚生制度の充実・向上をはかるため、中小企業勤労者福祉サービスセンターへの公的支援を自治体に求めるとともに、魅力あるサービスの充実に向けてライフサポート活動とも連携した取り組みを推進します。

Ⅳ.人材の育成と財政基盤の確立

〔2030年ビジョン④〕

労働者福祉運動を継承・持続するために、人材を育成し、財政基盤を確立します。

1.運動を継承する人材の育成

  • (1) 各ブロックにおける「労働者福祉運動の理念・歴史・リーダー養成講座」、さらには地域(県・地区)での研修・セミナーについて、地方労福協、地方連合会、労金、こくみん共済 coopが連携し積極的に開催します。
  • (2) 労福協の2030年ビジョンの実現に向け、重要な運動の視点となる「社会的連帯経済」の理解促進をはかるために、加盟団体などにおける人材育成のための研修素材と位置づけ、オンライン連続講座「ディーセントワークと社会的連帯経済」の受講を広く呼びかけます。
  • (3) 中央および地方の加盟団体が主催する研修・セミナーに、積極的に講師団講師を派遣します。
  • (4) 中央においては、教育文化協会が実施している大学寄付講座への「労働者自主福祉運動」のカリキュラム化の拡大を働きかけます。
  • (5) 労働者福祉運動に関わる教育研修素材(スライド版)を更新し、その活用を進めます。

2.労働者福祉運動への女性の参画促進

 労働者福祉運動の継承・発展のためには、女性の参画は不可欠です。中央労福協が主催する会議や研修会、「女性のひろば」などへの労働組合・事業団体・地方労福協の女性役職員の参画を促進します。また、中央・地方労福協における女性の活躍を推進し、女性役員を2030年度までに3割とするために、機関会議・加盟団体会議の委員登録について、女性の登用について要請するとともに、様々な場面での女性役職員の労福協運動への関与・参画について、事業団体・労働組合トップ訪問の際にも意見交換を行います。

3.財政基盤の確立

 運動と財政は一体的なものであり、社会的共感を広げる運動を持続可能なものとするため、労働者福祉運動としての財政基盤の確立に取り組みます。
 また、生活・就労応援基金(愛称「ろうふくエール基金」)について以下の取り組みを進めます。

  • (1) 社会経済活動の回復は進みつつありますが、まだまだ生活・就労支援へのニーズは継続して存在しています。これらを踏まえると、基金を可能な限り存続することとし、あわせて、さらに充実したものになるよう検討を重ねていきます。収支の関係など基金のあり様について総会ごとに検証し、必要に応じて運営の見直しを行います。当基金が果たしてきた役割や期待に応えるため、2024~2025年度も基金を運営していきます。
  • (2) 資金調達方法の一つとして「ゆにふぁん~支え合い・助け合い運動」の活用や必要に応じたクラウドファンディングの活用について、地方労福協へ周知・情報提供します。

Ⅴ.組織活動・運営、研修・教宣

1.各種会議の運営

 各種会議の開催形式については、その内容を十分考慮したうえで、対面とリモートのベストミックスを追求し、効果・効率的な会議運営をめざします。
 また、加盟団体間のネットワーク機能を高め、中央労福協の「つなぐ」役割の発揮によって、「つながる」運動を展開し、労働者福祉運動の前進をはかります。

(1)機関会議

 全体的な運動の前進と迅速な意思決定を実現する組織運営については、引き続き慎重に検討していくこととします。その足掛かりとして、幹事会における議論内容を広く幹事以外の加盟団体に共有するしくみを検討します。

  • ① 幹事会は年に4回程度開催します。
  • ② 三役会は1~2ヵ月に1回程度開催します。
(2)加盟団体会議など

 「新たな運動の展開と組織運営について」の議論において、労働者福祉運動をこれまで以上に浸透、発展させるには事業団体・労働団体・地方労福協の連携を強化することが不可欠であることを共有しました。したがって、引き続き加盟団体会議のさらなる充実をはかっていくとともに、情報共有ができる会議体運営を検討し、加盟団体間の連携をはかります〔資料25参照〕。

  • ① 事業団体会議、労働組合会議、地方労福協会議を開催します。相互の情報交換と意思疎通をはかるほか、それぞれの課題に応じたテーマでの討議、研修なども盛り込み、機能的で充実した運営をめざします。
  • ② 事業団体・地方労福協合同会議および労働組合・事業団体合同会議を必要に応じて開催します。また必要に応じてテーマ別の懇談会などを企画します。
  • ③ ブロック事務局長会議などを適宜開催します。

2.政策・制度に関する「要求と提言」活動

  • (1) 事業団体および地方労福協の要望を集約し、政策委員会で取りまとめを行い、政党および関係省庁に対し要請を行います。
  • (2) 地方労福協が各自治体への要請などを行う際の参考資料として、「要求と提言(自治体要請参考版)」を発行するとともに、各労福協の要請および回答内容を集約し情報共有します。
  • (3) また、情報共有にあたっては、要求項目と回答内容をデータベース化し、各労福協の成功例や優れた事例を模範にし、政策要求の実現性を高める取り組みを進めます。

3.全国福祉強化キャンペーン

 毎年10月・11月を取り組み強化期間とし、共助拡大・利用促進など労働者自主福祉運動を柱に、その時々の社会的課題を設定し、全国で集中して取り組みます。

4.研修活動

(1)全国研究集会

 事の社会課題や中央労福協活動方針の主要課題などをテーマに設定し、改善に向けた課題共有をはかることを目的に年1回開催します。

  • ・2024年度は、2024年6月に沖縄県那覇市(南部ブロック)で開催予定。
  • ・2025年度は、中部ブロックにて開催予定。
(2)オンライン連続講座
 2023年9月からスタートした、「ディーセントワークと社会的連帯経済」に関するオンライン連続講座について、公表している企画に沿って2024年8月を目途に展開していきます。
(3)ライフサポートセンター実務者・相談員研修・交流会
 相談員のスキルアップならびに好事例共有などの経験交流を目的に年1回以上開催します。
(4)地方労福協事務担当者研修会
 地方労福協の事務担当者を対象に、中央労福協の活動の理解や必要な知識の習得、地方労福協の取り組みの共有、事務担当者相互の交流をはかることを目的に研修会を開催します。
(5)Web学習会
 月1回程度、活動方針・活動計画に沿ったテーマを設定したWeb学習会を実施します。

5.国際交流活動

 国際労働財団(JILAF)や海外事業・国際活動を研究している関係団体と連携し、労福協活動につながる国際活動の取り組みを進めます。

6.広報活動

 公式ウェブサイト、ニュースレター、メール配信サービス、動画配信サービス、各種SNS、その他時代や流行にあわせた適切なサービスや方法を活用し、活動・事業に関する情報を適時発信し、労福協の認知度向上に努めます。

(1)公式ウェブサイトのリニューアル
 2018年のリニューアルから5年が経過していることを受け、時代にあわせたセキュリティやデザイン、利便性の向上の観点から、リニューアルを行います。
(2)マスコットキャラクターの活用
 2021年に誕生した労福協のマスコットキャラクター“きょうちゃん”について、イラストカットの充実、SNS、Webサイト、動画、チラシ・パンフレット、各種ノベルティなどへの活用を通じて、広く労福協の認知やイメージ向上の促進につなげます。

7.情報化の推進

(1)ICTの積極的な活用
 コロナ禍をきっかけに定着したWeb会議サービスや動画配信サービスについては、引き続き主催する会議・研修会・イベントなどにおいて有効に活用します。また時代や社会を取り巻くICT1の動向を注視し、会議資料のペーパーレス化をさらに進めるとともに、有用な技術・サービスについては必要に応じて導入・活用し、そのメリットを活かしていけるよう努めます。
(2)過去文書のデジタルデータ化
 中央労福協がこれまでに作成・発行した各種の原版(文書、刊行物、議案書その他の紙媒体資料)のうち、1980年頃までのものについては結成60周年記念事業の一環として経年劣化のないデジタルデータへと順次変換しました。引き続き結成80周年に向けて残りの部分のデジタルデータ化を進め、その歴史的資料の保存に取り組みます。
1 ICT = Information and Communication Technology : 情報通信技術を用い、人とインターネット、人と人とをつなげる技術のこと。

8.調査研究活動

  • (1)「教育費負担軽減へ向けての研究会」の2年目(学びと住まいのセーフティネット研究チーム)の取り組みを実施します。【「住宅セーフティネットの拡充」の項参照】。
  • (2) 中央労福協の進める運動・政策課題の中で、勤労者のニーズの把握や労働者福祉事業の取り組みにもつながる調査・研究については、連合総研・全労済協会などと連携しながら検討・実施します。なお、2025年6月に予定されている全労済協会のシンクタンク事業の関係団体への移管に伴う対応については、全労済協会・こくみん共済 coopと連携しながら移管計画の具体化を進めていきます。
  • (3) 地方労福協が実施した調査などの情報や成果の共有の促進をはかります。

9.加盟団体などの業務に関わるサポート

(1)労働組合の税務・会計サポート
 2021年以降の税制改正を反映した最新版の「労働組合等の会計税務に係る実務マニュアル(仮称)」を発行し、加盟団体、単組などへ普及をはかります。
(2)「現行社会保険制度の要点」の発行
 「現行社会保険制度の要点」(掲示用)を、加盟団体および要望のある単組、その他の団体などに向け、最新版を9月に発行します。ウェブサイト版では社会保険制度の法改正を踏まえ4月と10月に更新、詳細版を掲載します。
(3)法人格を有する地方労福協への情報提供
 一般社団法人、一般財団法人、公益社団法人、公益財団法人の制度・運営、会計、税制に関わる必要な情報を適時提供します。

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