イベント・行事
2003年度中央労福協主催全国研究集会
各プログラムにおける講師からの講演要旨
(1) コーディネーターからのイントロダクション
(龍谷大学教授 石川 両一)

 本研究集会のコーディネーター役をお願いした石川先生から、導入部の講演として、勤労者全体の暮らしを守るために、労福協・労働組合・事業団体が大胆な発想と運動スタイルの転換を図っていかなくてはならないとして、連合埼玉の「ネットワークSAITAMA21」、「近江フィランソロフィーネット」における滋賀県労福協の取り組み、中央労金のNPO支援活動としてのNPO事業サポートローンについて、ビデオ上映により先進事例の紹介を行い、地域における現場の活動の重要性を訴えた。

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(2) NPOからみた労福協運動「暮らしと福祉の協同に期待する」
(NPO事業サポートセンター専務理事 田中 尚輝)

 日本において先駆的にNPOを立ち上げ、NPO事業の啓蒙に従事されてきた田中尚輝氏からは、特定非営利法人法制定以来、にわかに社会的な課題解決のために台頭してきたNPO活動の労福協運動との類似点を指摘しつつ、両者のテーマ・ミッションが、社会的な課題(公益)≒労使関係以外の社会問題、殊に生活に密着する分野であるとして、労福協が自治体、NPO(地域住民)とのコーディネーターとして、さらに、必要な人に頑張っている情報を身近に提供できる地域情報サービスセンターとしての可能性をはらみながら、労福協とNPOとの協働に大いに期待するとメッセージを頂いた。

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(3) 市長からのメッセージ「高浜市における福祉のまちづくり推進」
(愛知県高浜市長 森 貞述)

 愛知県高浜市の森市長は、89年市長に就任以来、早くから福祉先進自治体を目指し、日本福祉大学等の研究教育機関とも連携した福祉の街づくりを推進しておられ、“高齢者対策や子育て支援など地域や市民ニーズを重視した独自性のあるオンリーワンのまちづくりを目指す”市政のリーダーシップを発揮している。最近では、高齢者の在宅生活を資金的に支援することを目的とした「高浜市リバースモーゲージ制度」を創設し、当初は地元のJAが取扱金融機関であったが、本年4月から、東海労金も参入させていただいた。
 森市長からは、ものづくりの集積地としての特色を活かし高齢者が外に出ていつまでも元気で暮らしていける活動や、居住福祉を軸とした地域福祉を推進する上での共通理念に基き、地方自治の利用者である住民の意思に適合した地域住民参画型の地域で支えあう「たかはま新世紀計画」システムづくりのお話を伺った。サービスの質を問いかけ、常に革新をしていく市政のあり方を求める市長としての強い意志が伺われた優れた講演であった。

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(4) 2003年度重点課題プロジェクト中間報告概要
(中央労福協事務局)

 中央労福協事務局より、本年2月の総会以降、5つの重点課題プロジェクトを立ち上げ、検討をしてきたとりまとめ概要について中間報告を行った。介護プロジェクトを除き、各プロジェクトの進捗状況は十分であるとは言えないが、これまでの現地視察や地方労福協での優れた先進事例に学び、検討を進める中で、「職域から地域へ」「現役中心から生涯福祉へ」「組織中心から中小・未組織を含んだ展開」を具現化し、労福協が動き、地域が変わり、勤労者の福祉を確かなものにしていくための梃子として、5つのプロジェクトの成果を活かしていきたいとした。
 今後は、本年8月末までに報告書の成案化を行い、全体で討議の上、次年度の活動方針に反映し出来るものからやっていきたい旨、報告を行った。

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(5) 分科会I:子育て支援の必要性と課題〜最近の育児困難現象を考える
(恵泉女学園大学教授 大日向 雅美)

 学術的に育児・子育てについて深い造詣を持ち、政府の審議会・懇談会の委員も務めらつつ、最近では、日本子どもNPOセンター代表として、子育て広場「あい・ぽーと」の新たな子育て支援の実践を行っている恵泉女学園大学の大日向先生をお迎えして、子育て支援の必要性と課題についてお話を伺った。
 大日向先生からは、少子化、晩婚化、子育てのコストの増加、仕事と家庭の両立が困難な最近の子育て事情に鋭い洞察を行う中で、心ある支援を行うためには、育児に悩む母親たちの声に真摯に耳を傾ける必要があるという。子育て支援に必要な基本的視点は、女性の社会参画への支援、就労・保育環境の整備としつつも、子育て支援は「親育て支援」「家族支援」であると喝破する。
 全国各地で動き始めている新たな子育て支援活動として、子育てサークルや子育てネットワークのNPOが全国で3000団体になっており、子育て経験のある“子育て支援士”による地域の子育て力が回復しつつある。また、NPOが行政・企業・市民と対等な関係の中で、相互の協働によって子育て支援が実践されつつある。現在、全国には学校のあき教室が約10万ある中で、労福協自身が直接やらなくとも行政折衝により、こどもNPO支援を行い、繋がりを持っていくことへの期待が述べられた。参加者からは大変好評であった。

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(6) 分科会II

[1] 退職直前セミナー(四国労金徳島地区本部次席推進役 米沢 信明)

 生涯生活支援・ライフセミナープロジェクトの一環として、四国労金米沢講師をお招きして、昨年11月に中央労福協モデル事業として徳島労福協で実践した「退職直前セミナー」のエッセンスの部分をプレゼンテーションしていただいた。人生80年時代を輝いて生きるために、年金・雇用保険・健康保険・税金は「請求せずには権利なし!」を念頭に、退職後は確定申告で税金の精算を!とのメッセージを軸に、軽妙な語り口で、参加者の具体的な年金支給年齢や事例を双方向でやりとりを行うという参加型の講演で大変好評であった。
 昨年の徳島におけるモデル事業においては、夫婦2人で参加していただく土曜セミナーや退職直前以前の40代の参加も得られて、ライフセミナーの重要性を広く体験していただいた。今後は、ライフプランセミナーの柱として、中小・未組織勤労を対象とした連合・経営者団体・自治体との連携を視野に入れた全国展開が望まれるところである。

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[2] 消費者教育の必要性(静岡労金お客様相談室室長 勝又 長生)

 ライフセミナーのもう一つの優れた取り組みとしてクレサラ問題の予防としての消費者教育「賢い消費者運動」がある。労働金庫は、1983年労働者のサラ金被害の防止と救済を目的に、全国的な「サラ金キャンペーン」を展開した。爾後、地道に消費者教育を進められ、勤労者・労組・企業への信頼を得てきた静岡労金の勝又室長をお招きしてお話を伺った。
 勝又講師からは、これまでの豊富なご経験をもとに、消費者教育の必要性だけでなく、第2段階に入ったと言えるクレサラ問題において、多重債務に陥った組合員の相談・カウウンセリングの留意点を中心に講演を進められた。多重債務者と対面するにあたっての心得や悪徳商法への現場の被害の実態についても報告がなされた。救済に当っては、きちんとした弁護士や司法書士など専門家との日頃の連携と関係作りが大切であることも述べられた。
 既に、地方労福協でも県下高校の卒業前の進路指導やホームルーム時間に、労金から講師を派遣して、賢い消費者講座を実施し、大変感謝されている事例も出てきている。クレサラ問題への対応については、今後各地域で基盤を確立し、勤労者の安心・安全ネットワーク作りにおける重要な活動分野として推進していく必要がある。

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(7) コーディナーターからの総括
(龍谷大学教授 石川 両一)

 最後に、コーディネーターである石川先生から総括コメントとして以下の労福協の役割と意義について期待が述べられた。
 本日の研究集会は大変豊富なテーマを盛り込み、個々の課題を消化することは大変であろうが、NPOとの連携、元気な自治体との連携、5大プロジェクトの重要課題、子育て支援、ライフセミナーなどどれも重要なテーマだ。
 労働組合をはじめ、労福協、労金、労済は、勤労者全体の暮らしを守るために作られた道具・装置だ。これらの装置が役立つ道具であり続けるためには、錆び付かないように常に磨いたり、時代にマッチし役立つように作り変えなければならない。現在、労働組合運動は、地域を舞台とした市民運動に重なり合い変化しつつある。労福協も市民全体に認められる運動が必要になってきている。このような環境にあって、労福協は人的資産を含めて21世紀の勤労者福祉の大きな役割と意義を担い得る存在だ。自らが変わり、汗をかくことによって、労福協の強みを活かす絶好のチャンスだ。労福協が地域のいわばコーディネーター役として益々重要な地域福祉の拠点となるであろう。これから何が出来るか、選択と集中が必要であり、5つのプロジェクトの中から、それぞれ1つでも実践していっていただきたい。
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