解説:労災保険(労働者災害補償保険法)

 労災保険とは、労働者が業務上の事由又は通勤によって負傷したり、病気になったり、障害者になったり、あるいは死亡した場合に、被災労働者や遺族を保護するために必要な保険給付を行うものです。また、労働者の社会復帰の促進など、労働者の福祉の増進を図るための事業も行っています。

1.適用事業者等

(1)適用事業

 労働者を1人でも使用している事業所は、適用事業とします。
 労災保険は、労働者ひとりひとりが加入するのではなく、事業所が加入します。
 また、一定の危険有害な事業を除き、常時5人未満の労働者を使用する個人経営の農業、林業、水産業は、暫定任意適用事業とします。

(2)適用の範囲

 労働基準法上の労働者(事業に使用される人で賃金を支払われる人)であれば、アルバイト、パート、日雇労働者であっても適用されます。派遣労働者も適用され、派遣元の事業が適用事業とされます。
 また、代表権、業務執行権を有する役員は適用されません。ただし、法人の取締役等であっても、代表者の指揮監督を受けて労働に従事し、その対償として賃金を受ける場合はその部分のみ適用となります。中小企業の事業主等は特別加入制度があります。

(3)適用除外

 次に掲げる事業は、適用事業としません。(別の法律に同じような補償があります。)

[1]国の直営事業(日本郵政公社、国有林野事業、独立行政法人国立印刷局、独立行政法人造幣局は、適用除外です。)

[2]官公署の事業(非現業の官公署は適用除外ですが、地方公務員のうち現業部門の非常勤職員は適用されます。)

[3]船員保険の被保険者(疾病任意継続被保険者は適用されます。)


2.保険料

(1)保険料額

 対象となる労働者の賃金総額に労災保険率をかけて計算します。(全額事業主負担)

<賃金総額とは>
 賃金総額とは、事業主がその事業に使用する労働者に対して賃金、給料、手当、賞与その他名称のいかんを問わず労働の対償として支払うすべてのものをいいます。

賃金総額に算入されるもの

賃金となるもの 賃金とならないもの
基本給、固定給等の基本賃金 結婚祝金、死亡弔慰金、災害見舞金
超過勤務手当、深夜手当、休日手当等 退職金
扶養手当、子供手当、家族手当等 役員報酬(賃金に相当する以外のもの)
住宅手当(住宅貸与を受けないときに均衡上支給する場合) 出張旅費(実費弁償と考えられるもの)
奨励手当(精・皆勤手当等) 休業補償費(法定額を上回る差額分を含む)
役職手当 解雇予告手当
技能手当、物価手当、教育手当、別居手当 私傷病見舞金(労働協約・就業規則に定めのないもの)
調整手当
地域手当 制服
賞与 財形の奨励金
通勤手当 住宅の貸与を受ける利益 (一部の社員のみに貸与される場合)
定期券、回数券
サービス料・チップ (報酬の配分として事業主から受けるもの)  
休業手当(労働基準法26条の規定によるもの)  
現物給与  

(2)労災保険率

 事業の種類ごとに労災保険率表で定められています。(0.25%~8.9%)

(注)1.労災保険料率は、一定規模以上の個々の事業における災害率に応じて、原則として上下40%の範囲内で増減されるメリット制があります。

2.労災保険率のうち0.6%は非業務災害率(通勤災害と二次健康診断等給付に係る率)となっています。

3.保険料のほかに石綿(アスベスト)による健康被害救済のための一般拠出金として、確定賃金額の1000分の0.02を負担します。

(3)保険料の納付

 毎年4月1日から翌年3月31日まで(これを保険年度といいます。)の1年間を単位として計算されることになっています。保険料は、保険年度の当初に概算で保険料(概算保険料)を納付し、保険年度末に賃金総額が確定したところで清算(確定保険料)することになっています。この手続きを年度更新といい、毎年6月1日から7月10日までに行わなければなりません。


3.国庫補助

 予算の範囲内において、費用の一部を補助します。


4.給付の内容

【療養補償給付】

(1)支給要件

 労働者が業務上の負傷又は疾病により療養を必要とする場合に受けられます。
 療養補償給付は、労災病院や労災指定病院等において、原則として傷病が治癒するまで自己負担なしに療養が受けられます。

(2)給付の範囲

[1]診察

[2]薬剤又は治療材料の支給

[3]処置、手術その他の治療

[4]居宅における療養上の管理及びその療養に伴う世話その他の看護

[5]病院又は診療所への入院及びその療養に伴う世話その他の看護

[6]移送

(3)療養の費用

 労災病院や労災指定病院以外で療養を受けた場合等、療養の給付をすることが困難な場合他、相当の理由がある場合には、療養の給付に代えて療養の費用が支給されます。療養の給付は現物支給ですが、療養の費用は、現金支給になります。


【休業補償給付】

(1)支給要件

 労働者が業務上の負傷又は疾病による療養のために労働することができず、賃金を受けない日の第4日目から支給されます。(ただし、休業初日から3日間は事業主は労働基準法の規定にもとづく休業補償を行わなければなりません。)

(2)支給期間

 休業第4日目から治癒するまで支給されます。
(休業開始日からの最初の3日間は、連続、断続を問いません。)

(3)支給額

 休業1日につき、給付基礎日額の60%
 このほかに給付基礎日額の20%に相当する休業特別支給金が支給されます。
 一部労働した場合は、給付基礎日額から一部労働して得た賃金を控除した額の60%が支給されます。

<給付基礎日額とは>
→【給付基礎日額等】(1)給付基礎日額


【傷病補償年金】

(1)支給要件

 業務上負傷し又は疾病にかかった労働者が、療養開始後1年6ヵ月を経過しても治癒せず、傷病等級(第1級~第3級)に該当するときは、傷病補償年金が支給されます。
 また、申請することにより、傷病特別支給金(一時金)と傷病特別年金が支給されます。

(注)1.傷病補償年金が支給された場合、療養補償給付は引き続き支給されますが、休業補償給付は支給されません。

(2)支給額

<給付基礎日額とは>
→【給付基礎日額等】(1)給付基礎日額

<算定基礎日額とは>
→【給付基礎日額等】(2)算定基礎日額

<算定基礎年額とは>
→【給付基礎日額等】(3)算定基礎年額


【障害補償給付】

(1)支給要件

 業務上負傷し又は疾病にかかった労働者が、傷病が治癒したときに身体に一定の障害が残った場合、障害等級第1級~第7級に該当する場合は、障害補償年金が支給され、障害等級第8級~第14級に該当する場合は、障害補償一時金が支給されます。
 また、このほかに障害特別支給金と障害特別年金(第1級~第7級に該当する人)、障害特別一時金(第8級~第14級に該当する人)が支給されます。

(2)支給額

<給付基礎日額とは>
→【給付基礎日額等】(1)給付基礎日額

<算定基礎日額とは>
→【給付基礎日額等】(2)算定基礎日額

<算定基礎年額とは>
→【給付基礎日額等】(3)算定基礎年額

(3)障害補償年金差額一時金

 障害補償年金の受給権者が死亡した場合、その者に支給された障害補償年金の金額及び障害補償年金前払一時金の合計額が下表の額に満たないときは、その差額が一時金として遺族に対し支給されます。

(4)障害補償年金前払一時金

 障害補償年金の受給権者の請求に基づいて、その障害等級に応じ下表に掲げてある額を最高限度として障害補償年金が一定額までまとめて前払で受けることができます。
 ただし、前払一時金の支給を受けた場合には、前払一時金の額に達するまで障害補償年金が支給停止されます。


【遺族補償給付】

(1)支給要件

 労働者が業務上の事由により死亡した場合に、労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた一定の範囲の遺族に対し遺族補償年金が支給されます。また、遺族補償年金の受給権者がいないとき又は遺族補償年金の受給権者が失権した場合に、すでに支給された遺族補償年金及び遺族補償年金前払一時金の合計額が給付基礎日額の1,000日分に満たないときは、一定の範囲の遺族に対して遺族補償一時金が支給されます。また、このほかに遺族特別支給金と遺族特別年金又は遺族特別一時金が支給されます。

(2)支給額

[1]遺族補償年金

(注)1.遺族特別支給金は、一時金として支給され、転給による受給権者には支給されません。

[2]遺族補償一時金

(ア)遺族補償一時金は、給付基礎日額の1,000日分
(遺族補償年金の受給権者が失権した場合は、給付基礎日額の1,000日分からすでに支給された遺族補償年金及び遺族補償年金前払一時金の合計額を差し引いた額)

(イ)遺族特別支給金は、300万円(転給による場合を除く)

(ウ)遺族特別一時金は、算定基礎日額の1,000日分
(遺族補償年金の受給権者が失権した場合は、算定基礎日額の1,000日分からすでに支給された遺族特別年金を差し引いた額)

<給付基礎日額とは>
→【給付基礎日額等】(1)給付基礎日額

<算定基礎日額とは>
→【給付基礎日額等】(2)算定基礎日額

<算定基礎年額とは>
→【給付基礎日額等】(3)算定基礎年額

(3)遺族の範囲

[1]遺族補償年金
 遺族補償年金は、労働者の死亡当時その収入によって生計を維持していた人で、次の優先順位で支給されます。ただし、55歳以上60歳未満の夫、父母、祖父母、兄弟姉妹は、60歳まで支給が停止されます。また、受給権者の死亡等で受給権を消滅したときは、同順位者又は次順位者に転給します。

順位 遺族 要件
1 配偶者 妻(要件なし)
夫(60歳以上又は一定障害)
2 18歳に達する日以後最初の3月31日
までの間の子又は一定障害
3 父母 60歳以上又は一定障害
4 18歳に達する日以後最初の3月31日
までの間又は一定障害
5 祖父母 60歳以上又は一定障害
6 兄弟姉妹 18歳に達する日以後最初の3月31日
までの間又は60歳以上又は一定障害
7 55歳以上60歳未満
8 父母 55歳以上60歳未満
9 祖父母 55歳以上60歳未満
10 兄弟姉妹 55歳以上60歳未満

[2]遺族補償一時金

 遺族補償一時金は、次の順位で支給されます。

順位 遺族
1 配偶者
2 労働者の死亡当時その収入によって
生計を維持していた子、父母、孫、祖父母
3 労働者の死亡当時その収入によって
生計を維持していなかった子、父母、孫、祖父母
4 兄弟姉妹

(4)遺族補償年金前払一時金

 遺族の請求により、給付基礎日額の1,000日分を限度とする一時金を前払金として受けることができます。ただし、前払一時金の支給を受けた場合には、前払一時金の額に達するまで遺族補償年金が支給停止されます。


【介護補償給付】

(1)支給要件

 一定の障害により傷病補償年金又は障害補償年金の受給権を有している人(病院等に入院している人は除かれます)が、現に常時又は随時介護を受けている場合に、月単位で介護補償給付が支給されます。

(2)支給額

介護の必要性 介護費用支出の場合 親族等による介護の場合
常時 104,970円限度 57,030円
随時 52,480円限度 28,520円

(注)1.介護費用を支出し親族等により介護を受けた場合で、常時介護で57,030円、随時介護で28,520円を下回る場合は、一律57,030円(常時介護)、28,520円(随時介護)が支給されます。


【葬祭料】

(1)支給要件

 労働者が業務上死亡した場合に葬祭を行う人に対し、その請求に基づいて支給されます。

(2)支給額

 315,000円に給付基礎日額の30日分を加えた額又は給付基礎日額の60日分のいずれか高い方が支給されます。

<給付基礎日額とは>
→【給付基礎日額等】(1)給付基礎日額


【年金額の調整】

 同一の事由により労災保険法の保険給付と厚生年金保険法・国民年金法よる年金保険給付(障害または遺族に係るものに限ります。)が併給される時には、労災保険の保険給付が73%~88%の支給率を乗じて減額されます。ただし、同一の事由で労災保険の障害補償一時金と厚生年金保険の障害手当金が支給される場合には、障害補償一時金が全額支給され、障害手当金は支給されません。


【通勤災害に係る給付】

 通勤災害による負傷や疾病についても、業務上の災害と同様の給付が行われます。
 ただし、「療養給付」を受ける場合には、初診時に200円の一部負担金があります。


【二次健康診断等給付】

(1)支給要件

 二次健康診断等給付は、労働安全衛生法の規定による健康診断等のうち、一次健康診断において、血圧検査、血液検査等の脳血管疾患及び心臓疾患の発生にかかわる身体の状態に関する検査で、一定の検査を行った場合に、その検査を受けた労働者がそのいずれの項目にも異常の所見があると診断されたときに支給されます。

(2)給付の範囲

[ア]脳血管及び心臓の状態を把握するために必要な検査で一定のものを行う医師による健康診断(二次健康診断)

[イ]二次健康診断の結果に基づき、脳血管疾患及び心臓疾患の発生の予防を図るため、面接により行われる医師、保健師による保健指導(特定保健指導)


【給付基礎日額等】

(1)給付基礎日額

 給付基礎日額は、原則として、災害が発生した日以前3ヵ月間に被災した労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割った額です。
 年金給付及び療養開始後1年6ヵ月を経過した後の休業補償給付の給付基礎日額には、年齢階層別に最低・最高限度額が設定されています。
 また、給付基礎日額は、賃金の変動(平均給与額)によって改定されます(スライド改定)。年金給付の算定の基礎となる給付基礎日額は、年度単位の賃金(平均給与額)の変動によって改定され、休業補償給付の算定の基礎となる給付基礎日額は、四半期ごとの賃金(平均給与額)が10%を超えて上下した場合に改定されます。

(2)算定基礎日額

 算定基礎日額は、算定基礎年額を365日で割った額です。

(3)算定基礎年額

 災害が発生した日以前1年間に労働者に支払われた特別給与(3ヵ月を超える期間ごとに支払われる賃金)の総額とします。その金額が給付基礎日額に365に乗じて得た額の20%に相当する額又は150万円を超える場合は、いずれか低い方の額とします。

詳しくは事業所を管轄する労働基準監督署にお問い合わせください。


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日常生活の中で「こんな場合はどうなるの?」という具体的な相談事例をとりあげて、社会保険労務士の根岸純子氏がわかりやすくお答えします。

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