(1) |
労働組合運動との機能・役割の分担について |
・ |
労働者福祉の向上と充実に向けて、政策の策定や実践活動の展開は、単に労働者のみならず全国民に資する永劫的な運動である。この理念において労働組合運動は取り組んできている。
しかし、労働組合運動の理念は労働組合による運動のみで完結するとは言えず、労働組合運動を支え補完する機能を備えた組織・団体が必要である。協同組合事業セクターの運動が重要視されている現在においては、その分野を含めて労働者福祉運動の促進を担う組織・団体があることによって、労働組合運動は広がりを持ちかつ力強く展開されるといえる。 |
・ |
このような観点において、労福協や多くの協同事業団体は労働組合運動の支援の下に創設され、献身的に関わってきた方々の努力と相まって大きな成果を上げてきたが、社会・経済構造変化に伴う社会的な福祉理念の変化への対応が生じ、労福協運動や協同事業団体活動に対する労働組合の期待には変化が出てきている。あわせて、「連合」の結成による労福協の基盤となる労働組合運動団体の組織変化もあって、労働組合運動の労働者福祉対応と労福協運動の重複について疑問が呈されている。 |
・ |
労福協の運動は永い歴史と大きな成果があるとしても、現在の労福協運動には、労働組合運動にとって重要課題である労働者福祉運動を展開する力強さに疑問が呈されている面がある。 |
・ |
労働組合運動と労福協運動の関係は以上のような背景がある。労働者福祉運動の重要性についての認識は一致していることを考えると、労働組合運動団体と、とりわけ「連合」と、労福協運動の役割分担や機能について調整することが極めて重要である。
以下、労働組合運動との役割分担の視点において、中央労福協を中心にした労福協運動に求められている役割と機能について整理して示した。なお当委員会としては、【「労福協運動」は、労働組合運動団体と協同事業団体との連携をはかり、あるいは充実した情報の収集や提供をして、関係団体の政策・施策づくりや実践面における労働者福祉運動の活動展開・促進をはかるコーデイネーターとしての役割を発揮することを期待されている。】と言う結論を得た。 |
1. |
わが国で労働組合運動の基盤であり核となっている団体は「連合」であるが、実態としては他にも労働団体が存在することや、ナショナルセンターに加盟していない労働組合組織がある。したがって中央労福協は、福祉課題に限ってであるが、全労働者に及ぶ福祉運動を展開する視点から、現在においても広く労働組合組織間の連携・調整機能を担うことが期待される。 |
2. |
近年、労働組合の組織率は低下傾向にあるが、未組織労働者あるいは、退職者を含む高齢者や一般市民を対象とする福祉対応は国民的運動が求められる。これらの対象者は労働組合運動と連携を取りきれない実態があり、この方々をも含み実践的に運動展開することが労福協運動である。また、この場合に地域的な対応も重要であり、その活動の拠点として、労働者福祉運動のセンターとして労福協は期待されている。 |
3. |
労働者福祉運動の取り組みとして福祉政策や施策づくりが重要である。労働組合運動は理念の具体化をはかるため、政策提言や「法制化」対応等によって社会的規範づくりに大きな力を発揮している。一方、労福協運動は、各事業団体の形成過程に見られるように、労働組合運動の成果に基づいて、具体的に実践するための政策の策定が基本であるが、例えば「法制化」されていない福祉施策についても、組織構成者の違いもあり先駆的な取り組みを促進していくことや、その過程での政策づくりと提言する機能も期待される。 |
このように、労働組合運動団体と中央労福協の政策の策定と具現化する活動は、必ずしも重複しているとは言えず、労働者福祉運動の政策づくりや施策の展開において、運動領域の違いによる専門的な立場から、情報や意見の交換と運動展開に当たっての連携と協力について機能を整備しておくことが重要である。 |
(2) |
協同事業団体に対する中央労福協の役割と機能について |
・ |
中央労福協を構成している協同事業団体は、戦後の労働組合運動の発展過程で、労福協運動の展開とともに労働組合を基盤にして創設されてきた。例外的な日本生協連は歴史も永く、組織の中心は「購買生協」である。今日ではいわゆる「市民生協」と呼ばれるが、その特徴は消費者運動や市民運動を背景に生まれてきたこと、運動の主体が主婦組合員であることなどである。しかし、「物対協」に参画して以来労働者福祉団体の一員として今日まで共に活動をしてきた。その後、協同事業団体は成長発展し、現在は体制も整備されそれぞれの専門分野における人材も育ち自立した活動を展開し、労働者福祉運動の一端を担っている。 |
・ |
その後協同事業団体を取り巻く環境は様変わりしてきた。そのために存続を問われている協同事業団体も出てきており、それぞれの協同事業団体において基盤整備に努めている。また、これまでの事業基盤確立に重要であった自立意識を乗り越えて、労働組合運動団体とあるいは協同事業団体間の連携の必要性が求められている。 |
・ |
経済・社会構造の転換への対応が課題となるとともに、社会的な福祉理念の変化や少子・高齢化あるいは環境問題等の新しい課題への挑戦が求められている。このような視点から労働者福祉運動の展開を迫られており、(株)ワークネットが発足したことに見られるように、新たな協同事業体を整備していく取り組みが出てきている。 |
・ |
したがって、協同事業団体にとっては労働者福祉運動のセンターが必要であり、中央労福協が関係団体における情報の共有や連携などにおいて有効に機能するよう整備されることが望まれている。具体的には次の通りである。 |
1. |
協同事業団体は、労働者福祉運動の一端を担い実践する団体として設立してきた。そして、それぞれの専門分野として機能や体制の整備をはかり、また自立する努力を重ね今日に至っている。今後も専門分野を担う立場において一層の事業基盤整備をはかっていかなければならないが、市場原理が強まる状況において、労働組合運動との連携と協力関係の調整は益々重要になってきており、この視点について中央労福協の役割と機能が期待される。 |
2. |
協同事業団体は、それぞれが専門分野において活動を展開しているが、協同組合法が各種協同組合にそれぞれ対応する個別法という性格となっており、その連携をはかる機能が必要である。また、それぞれの協同事業団体の活動推進に当たって、労働者福祉運動の情報の共有や一元化そして連携した活動の展開が、事業の活力や効率性において、あるいは対象となる個人への便宜としても重要になってきている。この視点から協同事業団体の連携について中央労福協の役割と機能が期待される。 |
3. |
企業社会からの脱皮が叫ばれているが、福祉施策の社会的整備の推進が益々求められている。また、少子・高齢社会への対応や環境問題への対応が迫られている。中央労福協は、これらの施策(政策)づくりと実践に向けての体制づくりを支援し環境を整える取り組みが必要である。既に実践している各種団体への支援活動やネットワークづくり、必要によっては協同事業団体の協同化の促進や再整備についても提言して、労働者福祉運動の展開をしていかなければならない。この視点における中央労福協の役割と機能が期待されている。 |
4. |
協同事業団体と行政との関係においては、1事業団体としての対応ではなく全労働者福祉の視点から、中央労福協が窓口となって対応することが期待されている。 |
(3) |
地方労福協に対する中央労福協の役割と機能について |
・ |
地方労福協は各県における労働者福祉運動を推進する団体である。その意味では中央労福協の基本的な役割や機能と相違はないが、労働者生活により密着して実践的活動をしている。
なお、組織構成については地域特性がある。各種の協同福祉事業団体と県連合も含め単位労働組合で構成している。 |
・ |
労福協は、「連合」をはじめとする労働組合運動団体と共同して活動を展開することは当然であるが、地方労福協は「連合」やナショナルセンターへの未加盟労組や、OBをはじめとする未組織労働者をも含み全労働者を対象にして活動している。また、地方労福協は企業別・産業別労働者の枠を越えて地域における労働者福祉活動のセンターとして存在意義を有している。この点においては労福協関係者の努力もあって行政も認めるところであり、行政からの諮問・支援の窓口として活動している。 |
・ |
したがって、労働組合運動の理解を前提に、地方労福協は「連合」をはじめとする関係団体から自立した体制の基盤確立が望ましいが、地方労福協によっては「連合」からの事務所維持の支援を受けている場合や、「連合」現役役員が地方労福協の会長や事務局長を兼任せざるを得ない場合もあって、労福協の存在が希薄になっている事例もある。 |
・ |
自立した財政基盤の確立も重要である。労働組合の拠出とあるいはそれ以上に協同事業団体からの拠出が、地方労福協の財政基盤となっているが、前述した背景もあって厳しい実態も見られる。また、現在の動向として、全労済に加えて労金が広域統合を目指しいずれは全国統合を指向しているが、各地域における労働組合や労働者の理解と協力を得る労福協活動は益々重要であり、この視点から協同事業団体には、地域事情を十分に考慮して労福協の財政基盤を支援することが期待されている。 |
・ |
地方労福協が各県単位で期待されている役割や機能を発揮するため、地方労福協は中央労福協の活動と運営について以下の通り期待している。 |
1. |
中央労福協は国内外における労働者福祉運動の情報について、収集と発信センターとして期待される。 |
2. |
各県労福協が共有できる、活動推進の基本となる労働者福祉運動方針を取りまとめ、あるいは各県労福協の活動推進に対し、環境を整え各種の支援機能を整備することが期待される。 |
(4) |
福祉関係非営利団体・NPO・NGOとの関係と連携 |
・ |
特定の課題に焦点を当てて取り組む、非営利の自主的団体が誕生している。多くの団体が最近誕生しており、その運動・活動の推進や組織運営には苦労している実態もある。しかし、非営利団体はそれぞれの団体として運動・活動理念を有している。そして、それぞれの団体が独立し、自立していることを理解しておかなければならない。このような事情を踏まえ、労福協はこれまでの労働者福祉運動の延長線上に立って、福祉関係の非営利団体と連携し、活動しやすい環境整備等の支援をする機能を発揮することが期待される。 |
・ |
非営利団体が抱える課題によって、長期継続性の団体と一定期間で役割が終わり解散する団体もある。また、法に基づいて登録されている団体もあるが未登録の団体も多い。
このような状況にあり、非営利団体の有無や活動状況を把握することは極めて困難であるが、多くの非営利団体が活動内容としている課題は福祉であり、労福協運動としては活動の支援や連携をする必要がある。国民的福祉運動を展開する視点において、中央労福協と地方労福協は協力して、先ず情報収集センターとしての機能を持つべきであろう。 |
・ |
それぞれの団体が抱える課題は多岐にわたると想定されるが、労福協運動の立場を踏まえ、福祉課題について活動している団体との連携や活動の支援をしていくべきである。具体的には、中央労福協への組織参加や共同研修あるいはネットワーク化の模索等の活動を積み上げていくことが考えられる。 |
・ |
以上のような背景に基づいて考察すると、市民団体と言われる非営利団体が期待している関係団体の要件は以下の内容であり、中央労福協はその機能を備えているが、今後の活動や運営によってその役割と機能の整備が期待されている。 |
1. |
福祉関係非営利団体が抱える課題を理解し、広く啓発し活動展開を容易にする支援団体。 |
2. |
福祉関係非営利団体に関係する必要な情報を収集し、時には適切な助言を得られる支援団体。 |
3. |
福祉関係非営利団体の独立性・自立性を侵すことなく、行政への対応を含めて団体の基盤確立に支援を得られること。また、団体の体制や財政について適切な助言や支援を与えられる支援団体。 |