活動方針

2022~2023年度活動方針

はじめに

 2019年11月、中央労福協は70周年を迎え、「すべての働く人の幸せと豊かさをめざして、連帯・協同で安心・共生の福祉社会をつくります」を理念に確認しこれまでの運動を継承しつつ、活動の指針となる「労福協の2030年ビジョン」を策定、新たな社会を切り拓く一歩を踏み出しました。
 しかし、2020年初頭から始まった新型コロナウイルスの感染拡大により、経済・社会・国民生活は甚大な影響を受け、生活様式は一変しました。
 長引くコロナ禍においては、これまで隠れていた貧困が露呈し、仕事や住まいをなくし困窮する人々が急増しており、出口が見えない不安な状況が続いています。特に休業や廃業に追い込まれた業種や非正規雇用などで働く人々が深刻な状況に至っており、格差や社会の分断が拡大しつつあります。コロナウイルスと共存せざるを得ない社会においては、より多くの知恵を出し合わなければなりません。
 日本社会の脆弱さが浮き彫りになった今、国は、「公助」の力を発揮し、安心して暮らせる社会の基盤をつくる責任があります。そのうえで、社会のセーフティネットを多様で重層的に張り巡らせるとともに、SDGsがめざす「誰一人取り残さない」持続可能な社会を創造しなければなりません。
 そのため私たちは、「今こそ労働者福祉運動の出番」と気概を持ち、これまでの様式を柔軟に見直し、共助の輪の拡大を図り、ポストコロナ社会に向けての労働者自主福祉活動を力強く進めます。


 長引くコロナ禍により、雇用の劣化、医療崩壊、相談崩壊などこれまで経験したことのない深刻な事態を打開するためには、セーフティネットの強化が急務です。特に生活保護制度の運用の緩和・柔軟化および水際作戦の根絶、経済的に困難を抱える子育て家庭への支援、学費の納入や奨学金返済が困難な学生や若者への支援、普遍的・恒常的な家賃補助制度の創設など、安心して働きくらせる社会をめざすことが求められています。そのためには、政府に要請するとともに、労働者自主福祉運動の原点に立ち返り、労働組合と事業団体がともに運動する主体となり、共助の輪の拡大を図り、支え合い・助け合いを地域に根付かせるために取り組まなければなりません。
 新型コロナウイルスに加え、地球温暖化の影響とみられる気象災害や大規模災害が多発しています。非常時にどうあるべきかを地域で考え、実行する力が必要であり、「地域コミュニティ」の再生とそのための「居場所」づくりが求められています。コロナウイルスと共存せざるを得ない社会において、人と人のつながりを大切にする私たちの運動を推進するためには、大胆な発想の転換と創意工夫が必要です。リモート方式やオンラインなど新たなツールを有効に活用して共感を広げ、若者を初め多くの新たな仲間をつなぐ取り組みにチャレンジをしなければなりません。
 私たちは、ポストコロナ社会を見据えた運動を前進するために、「2030年ビジョン」の実現をめざし、加盟団体や関係する諸団体と連携をはかり、2年間の活動を進めます。

Ⅰ.安心して働きくらせる社会をめざして

〔2030年ビジョン①〕

多様なセーフティネットで、働くことやくらしの安心を支えます。

1.社会保障制度の充実と所得再分配機能の強化をめざして

(1)社会保障制度の充実
 超少子・高齢、人口減少、不安定雇用労働者の増加、家族形態の変化に対応するため、長引くコロナ禍においてその脆弱性が明らかとなった社会保障制度の機能強化に向け早急な制度改革が求められています。
 改革を進めるにあたっては、国民の安心・信頼が確保される制度とするため、幅広い国民の声が反映され、結論を得るよう政策・制度要求を行っていきます。
(2)所得再分配機能の強化
 格差を是正し貧困のない社会をつくるためには、持続可能な社会保障制度財源の安定的確保が必要です。税による所得再分配機能の強化に向け、不公平税制の是正、法人税の引き上げ、所得税の累進課税の強化、資産課税の強化などについて、政策・制度要求を行います。

2.貧困や社会的排除のない社会に向けて

(1)ディーセントワークの促進と公正なワークルールの確立
  • ① すべての働く人が安心して働き続けるためには、ディーセントワークの確立が不可欠です。そのため、最低賃金の引き上げ、長時間労働の規制強化、均等待遇など真の働き方改革を実現するよう政府に求めていきます。また、労働法違反への罰則強化と、あらゆる規模の企業に対して労働法制の周知と遵守の徹底をはかるよう働きかけます。
  • ② 障がい者が安心と働きがいを持って働ける場を拡充するよう政府に求めます。
  • ③ 多様な雇用形態(請負、フリーランス等)で働く人たちのディーセントワークを確保するためのワークルールの確立を政府に求めていきます。
     また、すべての外国人労働者の人権が保障され、日本人と同等の賃金・労働条件が確保されるよう、政策・制度要求を行っていきます。
  • ④ あらゆるハラスメントを許さない職場・地域・社会づくりに取り組みます。
  • ⑤ 労働法の周知をはかるため、ワークルール検定協会との連携を進めます。また、複数の地方労福協が実施している高校・中学校への労働問題に関する出前講座など、教育活動の推進に取り組みます。
(2)人間の尊厳が保障される生活保護制度への改善
  • ① 2018~2020年に3年連続で行われた生活扶助費引下げによる生活保護利用者や国民生活への影響について、実態把握・調査を行い、十分な検証を行うよう国に求めていきます。また生活保護基準の引下げが国民生活に与える影響を最小限にするよう、引き続き政府、自治体に要請を行います。
  • ② 次期生活保護基準見直し(2023年)にむけて、厚生労働省・生活保護基準部会による審議状況を注視しつつ、市民団体等と連携して、健康で文化的な生活水準を確実に確保できる基準となるよう求めていきます。
  • ③ 社会保障の脆弱さが生活保護制度に過度に負荷をかけている制度のあり方全般を見直すとともに、「生活保護法」から「生活保障法」への改正をめざし、人間の尊厳が確保され利用しやすい制度への改善に取り組みます。
  • ④ 日本では、生活保護が必要な世帯のうち現に生活保護を利用している割合(捕捉率)は2割程度に過ぎず、水際作戦や親族への扶養照会が利用抑制の原因となっています。支援が必要な時に適切に生活保護を利用できるよう、水際作戦の根絶、扶養照会の運用や制度の改善、制度の周知広報を求める政策要求活動を進めます。また、生活保護への誤解や偏見をなくす啓発活動に取り組みます。
  • ⑤ 生活保護業務の根幹を担うケースワーカーの外部委託は、生活保護の申請・受給抑制や生活保護行政の劣化を招く恐れがあることから、行わないよう求めていきます。
  • ⑥ 貧困の根絶と格差の是正に向けて、「生活底上げ会議」等を通じて、市民団体、法律家などと連携し、広範な運動とネットワークづくりや啓発活動、政策提言などに取り組みます。
(3)貧困の連鎖・子どもの貧困の解消
  • ① 子どもの7人にひとりが貧困状態にあることから、当事者である子どもの視点を大切にした抜本的な貧困対策を推進するよう求めるとともに、2024年に予定される「子どもの貧困対策法」改正および「子供の貧困対策大綱」見直しに向けた現状の課題検証を求めます。
     また、子どもの貧困は親・保護者の貧困に起因しており、特にひとり親世帯の相対的貧困率はほぼ5割となっていることから、ひとり親世帯に対する支援を強化するよう求めます。
  • ② 学習の機会を通じて問題意識を高めるとともに、労働者自主福祉としてできることの検討を含め、支援がより充実したものとなるよう関係団体と連携して取り組みます。
(4)多重債務対策の強化
  • ① インターネット上のショッピングやゲーム、ギャンブルなどへの依存症から多重債務に陥るケースやコロナ禍による収入減に付け込んだ新たなヤミ金手口が横行していることから、引き続き関係団体と連携し多重債務問題解決に向けた取り組みを進めていきます。
  • ②改正貸金業法の定める総量規制の対象外である銀行カードローンに起因する過剰融資について引き続き動向を注視し、労金や関係団体などとも連携し啓発活動をはじめ法改正も含めた必要な対応をはかります。
  • ③ 多重債務問題やギャンブル依存症の誘発が懸念されるカジノ問題については、誘致を表明する自治体に対し、指摘されている様々な懸念や課題について冷静に分析し判断するよう求めていきます。また、IR誘致をめぐる疑惑の徹底解明を求めるとともに、その間のカジノ推進の凍結と検証、カジノ解禁の見直し・廃止を求めます。
(5)自殺のない社会づくり
  • ① 自殺対策基本法および自殺総合対策大綱にもとづき、地方自治体や学校、地域の団体が実効性のある自殺対策を行えるよう、国に対し、より詳しい実態把握と自死に至った原因や動機の分析を行い公表するとともに自殺防止のための啓発活動を強化するよう求めます。
  • ② 特に子どもや若者は、休学や不登校、失職や休職、心の病気、疎外感や孤立感を感じるなど様々な悩みが複合的に重なりながらも助けを求める相手がいないというリスクを抱えています。SNS等の活用を含めたきめ細かい相談体制を広げるため、相談対応を行う団体等への支援を強化するよう求めます。また、相談を受け止める側の研修を含めた自殺予防教育の充実をはかるよう求めます。

3.学びと住まいのセーフティネット

(1)奨学金制度改善・教育費負担軽減の取り組み
 第3期「奨学金制度改善・教育費負担軽減」運動(2021年4月~)に取り組みます。取組期間は、2024年(大学等修学支援法施行4年後の見直し時期)までの中期的なゾーンを設定し、将来的には教育無償化を展望しつつ、奨学金制度等の拡充と教育費の負担軽減を求める取り組みを展開し、広く世論喚起に繋げます。
 運動を進めるにあたっては、「有利子から無利子へ、貸与から給付へ」という流れは継続しつつ、支援を受けられる人と受けられない人とで不公平感が生じないよう、中間層や奨学金返済者を含めたみんなの負担軽減につながる次の4つの課題に重点的に取り組みます。

  • ① 教育の漸進的無償化に向けた学費の軽減と給付型奨学金の拡充を求めるため、2023~24年の大学等修学支援法施行後4年の見直しに向けて、「教育費負担軽減の中長期戦略に関する研究会(仮称)」を設置し、高等教育投資の政策目標や教育費負担軽減の中長期戦略策定に向けた調査研究を行います。
  • ② 所得連動返還型奨学金をはじめ無理のない返済制度への改善に向け、現行制度の問題点についての実態把握などの取り組みを進めます。
  • ③ 奨学金返済や保護者の教育費負担を軽減し少子化対策を促進するための政策減税として税制支援を導入するよう働きかけ、実現をめざします。
  • ④ 労働者自主福祉の取り組みとして、各地域において、行政・法律家等の専門家と連携し適切な役割分担のもとに奨学金に関する相談に対応できる体制を整備し、定着をはかります。なお、「奨学金に関する全国一斉相談」については2018~2021年度の4年間の取組総括を行ったうえで、全国一斉での取り組みに替わる新たな手法を検討します。
(2)住宅セーフティネットの拡充
  • ① コロナ禍に対応し住居確保給付金の運用や制度改善をはかりつつ、普遍的・恒常的な家賃補助制度の創設をめざして取り組みます。
  • ② 「住まいは人権」との観点から、福祉・住宅政策の連携や住宅セーフティネットの再構築をめざします。このため、2017年10月からスタートした新たな住宅セーフティネット制度をさらに強化し、制度の周知徹底と登録住宅の拡大、家賃の低廉化につなげるための予算拡充や制度改善に取り組みます。また、住宅確保要配慮者に対する住宅の提供と家賃補助・住宅債務保証の拡充、賃貸住宅居住者への税制支援等を求めて制度改善に取り組みます。
  • ③ 地域における居住支援協議会の設置、居住支援法人の指定や活動を促進するため、全国居住支援法人協議会と連携して取り組みます。
  • ④ 生活困窮者を食い物にする「貧困ビジネス」(追い出し屋、脱法ハウス、無料低額宿泊所による生活保護費のピンハネ等)の根絶、規制強化をめざします。
  • ⑤ 住宅セーフティネットの拡充に向けて、協同組合や労働者福祉事業団体としての関わりや可能な取り組みについての勉強会の開催など、関係団体との意見交換や問題意識の共有を進めます。

4.消費者運動との連携

(1)消費者被害の防止・救済の取り組み
  • ① 2022年4月より成年年齢が引き下げられることに伴い、若年層の消費者被害が広がることのないよう、法整備や消費者教育などの施策の強化を求めます。
  • ② 消費者被害の防止・救済に向けて、「NPO法人消費者スマイル基金」の活動が地域でも広がるよう、引き続き加盟団体への理解と協力を求めていきます。
(2)消費者行政の支援の強化
  • ① 地方消費者行政強化交付金の増額など地方消費者行政への支援策の強化を政府に求めます。あわせて、地方労福協の自治体要請等を通じて、自治体消費者行政の自主財源確保の拡充を求めます。
  • ② 消費者が全国どこに住んでいても質の高い相談が受けられる体制を確立するため、消費生活相談員の雇い止め問題の解消と確実な処遇改善を求めます。
(3)消費者教育、エシカル消費の促進
  • ① 消費生活協力員や消費者教育の担い手などの人材育成、学校教育における消費者教育の充実を求めていきます。また、複数の地方労福協が実施している消費者問題に関する講座などの推進に取り組みます。
  • ② 一部の消費者による過剰な要求、暴言・暴力などの問題について、公共の利益および消費者・労働者双方の権利を守る観点から、消費者と事業者の良好かつ健全なコミュニケーションを促進するよう、関係団体等と連携して普及・啓発を進めていきます。
  • ③ 持続可能な社会づくりに向けて、地域の活性化や雇用等を含む人や社会・環境に配慮した消費行動を促進していきます。

5.持続可能で、安心してくらせる社会に向けて

(1)大規模災害からの復興・再生と防災・減災の取り組み
  • ① これまで全国各地で発生した地震や集中豪雨、台風などの大規模自然災害により被害を受けた方々への支援や地域の復興・再生、原発事故に起因する福島県固有の課題など、未だ残されている多くの課題への対応に対して、東日本大震災を教訓にしながら引き続き関係省庁に対して政策・制度要求を行います。
  • ② 今後、全国各地で起こりうる自然災害や南海トラフ地震、首都直下型地震を想定し、多発する大規模災害リスクへの対処およびコロナ禍における対策に対して、関係省庁、自治体要請を強めます。
  • ③ いざという時の備えや大規模災害を乗り越える地域コミュニティの再生および平時の福祉と災害時の危機管理の連結など、災害リスクを最小限に止めるために、関係団体と連携し、啓発活動を進めていきます。
  • ④ また、「被災者生活再建支援制度」の一部改正(2020年11月30日成立)では不十分なため、関係団体と連携しさらなる制度拡充に取り組むとともに、被災時の生活再建に必要な自然災害共済への加入促進を進めていきます。
(2)持続可能な地球環境に向けた取り組み
 気候変動は全ての生物の生存基盤を揺るがしかねない「気候危機」と言われています。また生物多様性の損失、海洋汚染等は喫緊の課題です。私たちはSDGsの目標達成に貢献し、将来に渡って持続可能な地球環境を繋いでいくため、取り組みを進めます。

  • ① 私たち一人ひとりが問題意識を高め、自分ごととして捉えて取り組んでいくため、気候危機をはじめ地球環境に関わる問題についての学習の機会を設けるとともに啓発活動に取り組みます。
  • ② 自らのライフスタイルを見直し、環境省が国民運動として取り組む「COOL CHOICE(地球温暖化対策に資するあらゆる『賢い選択』)」を広げます。
  • ③ 持続可能な循環型社会の構築をめざし、連合・中央労福協・労金協会・こくみん共済coopと連携しながら「環境・社会フォーラム」を通じて啓発に取り組みます。
(3)食品の安全、食料・農業問題
 生協や消費者団体と連携し、食品の安全の確保や表示に関する政策・制度改善に取り組むとともに、食品の安全や食料・農業問題に関する学習、食育を通じた食生活の改善、地産地消の推進など息の長い取り組みを進めます。
(4)平和問題
 安心して働き暮らすことができる紛争のない平和な社会(世界平和)をめざし、関係団体の行動とも連携していきます。

Ⅱ.労働者福祉事業の促進と共助の輪の拡大

~ 労働運動と労働者福祉事業の「ともに運動する」関係の強化

〔2030年ビジョン②〕

労働組合と協同組合が連携・協同し、共助の輪を広げ、すべての人のくらしを生涯にわたってサポートします。

1.協同組合の特性を活かし発展するための政策の実現

  • (1)協同組合は、SDGs達成の担い手として国連をはじめ世界的に期待が高まっています。協同組合が日本と地域の持続可能性に貢献できるよう、その特性を活かし健全に発展できる政策を政府に求めます。
  • (2)協同組合がその独自性を活かし社会的役割を発揮できるよう、協同組合に配慮した税制の継続や法制度の改善を政府に求めます。
  • (3)2022年10月の「労働者協同組合法」の円滑な法施行に向けて、制度の周知や取組事例の共有を通して、協同労働による仕事おこし・地域づくりの促進をはかります。

2.協同組合の社会的役割の発揮に向けて

 地域における協同組合の役割発揮の強化に向けて、加盟事業団体間の連携を促進します。また、日本協同組合連携機構(JCA)と協力し、各協同組合が行う事業や活動の分野横断的な連携を強化し、中央レベルならびに都道府県レベルでの協同組合間協同や認知度向上を促進していきます。さらに、都道府県の協同組合連携組織が行うラウンドテーブル(円卓会議)の取り組みに協力するなど、地域の実情に応じた協同組合間の連携強化をはかります。

3.労働者福祉事業と労働組合の連携強化 ~「ともに運動する」関係づくり

  • (1)労働組合と事業団体が「ともに運動する主体」として関係を強化するため、引き続き労働者自主福祉事業や協同事業の今日的意義や社会的価値への理解を広げるための取り組みを進めます。
  • (2)加盟団体相互の連携と協力関係の強化に向けては、「事業団体会議」、「労働組合会議」、「労働組合・事業団体合同会議」を開催し、相互利用・好事例共有をはかります。また、労金、こくみん共済coopと連携し、労働団体との連帯を深めるためにさらなる関係強化を促進します。
  • (3)中央・地方労福協は、自らの活動が事業団体の利用促進や支援につながっているかどうか自己点検を行い、相互の信頼をより確かなものにするよう努めます。こうした信頼関係のもと、地方労福協が安定した活動の継続ができるよう、加盟団体に引き続き理解を求めていきます。

4.共助の輪の拡大 ~ 誰ひとり取り残さない社会に向けて

  • (1)中小・零細企業、非正規や多様な雇用形態で働く人たち、さらには外国人労働者など共助の輪に参加できていない人たちへの福祉事業の利用を広げるための受け皿や制度開発などについて、関係団体と連携し検討を進めます。
  • (2)地域における協同組織(組合)や福祉事業団体を利用することで得られる「循環型の助けい合いの仕組み(支援やカンパによる基金化など)」づくりについて、関係団体と連携し検討します。
  • (3)フリーランスなど多様な雇用形態の労働者を支えるため、関係団体と連携を図り、情報提供等の取り組みを進めます。

Ⅲ.支え合い、助け合う地域共生社会づくり

〔2030年ビジョン③〕

地域の様々なネットワークで、支え合い、助け合う地域共生社会をつくります。

1.ライフサポート活動の推進強化

  • (1)ライフサポート活動においては、労福協加盟団体、行政、専門家などとネットワークを広げ、地域住民の様々なくらしのニーズに対応し、困り事の解決をサポートします。また、居場所や生きがいづくり、未組織労働者や高齢者などに共助の輪を拡大していくなど、勤労者の拠りどころとしての機能を高めていくことをめざし取り組みを進めていきます。
  • (2)連合、中央労福協、労金協会、こくみん共済coopの4団体で構成する「勤労者の暮しにかかるサポート事業推進責任者会議」において、2015年5月に4団体で確認した事項をもとに、今後の方向性などについて、議論を進めていきます。また、連合の労働相談の集中化に伴う影響を検証するとともに、ライフサポートセンターが担う機能について課題の整理と今後のあり方を検討します。
  • (3)ライフサポート事業の安定的な運営、基盤強化、先進事例の共有化などを目的に、全国のライフサポートセンター責任者を対象に、情報交換会を開催します。
  • (4)複合的な相談やメンタルヘルス、消費者被害など相談内容が多岐にわたっています。相談員のスキルアップをはかるため研修・経験交流会を開催します。将来的には4団体による合同研修会の開催をめざします。

2.地域共生社会づくりに向けて

(1)「地域共生社会」の推進
  • ① 「地域共生社会」の実現に向けて、行政に共助や共生を支えるための公的な責任(共生保障)を求めつつ、協同組合やNPO、地方労福協が連携・協働して、より能動的な主体者として関与していていくことをめざします。
  • ② 自治体と非営利・協同組織との関係を、単なるコスト削減や下請け型の業務委託ではなく、目的や基準(公正労働基準)を明確にした上での対等なパートナーシップにもとづく協働の関係づくりをめざします。
  • ③ 社会福祉法等改正に伴い2021年4月にスタートした重層的支援体制整備事業が、「断らない相談支援、参加支援、地域づくり」という本来の趣旨に添って定着・発展できるよう、自治体要請等を通じて取り組みます。また、地域共生社会づくりに向けた行政の動向に対応し、ライフサポート事業の役割や連携のあり方を見直し、それぞれの強みを活かした地域全体での相談・支援体制の強化やネットワークづくりに取り組みます。
(2)生活困窮者自立支援制度の拡充と生活・就労支援の強化
  • ① 生活困窮者自立支援法の「施行後5年の見直し」(2023年10月)を前倒し、同制度がコロナ禍で果たした役割や課題、重層的支援体制整備事業の創設等も踏まえた見直し・検証を行い、必要な法制度の整備・改善を進めるよう政府・国会に働きかけます。
    • a) 就労準備支援事業と家計改善支援事業の全自治体での完全実施を速やか達成するとともに、一時生活支援事業、子どもの学習支援・生活支援事業も含めた任意事業を次期改正で必須化し、補助率も引き上げるよう働きかけます。
    • b) 「人が人を支える」制度を持続させる根幹として、委託契約にあたって支援の質や実績を総合的に評価することや、相談員・支援員の雇用の安定と処遇の改善を求めます。
    • c) 就労支援期間中の生活支援給付、交通費等の実費支給、住居確保給付金の拡充など、支援を実効化するための制度改善に取り組みます。
  • ② 地域で支える体制をつくるため、優先発注等の仕組みを活用するなど、受け皿となる認定就労訓練事業所を促進するための環境整備を行政に要請します。労福協においても、先進事例を共有しつつ、就労準備支援事業や就労体験・訓練・働く場の確保や居場所づくりなどに、労働組合、協同組合、NPO等と連携して取り組みます。
  • ③ 生活困窮者自立支援や就労支援を行っている労福協、事業団体、関係団体と「生活・就労支援連絡会議」を開催し、各地の実践の経験交流や情報交換、政策・制度改善の検討等を行います。
  • ④ 生活困窮者自立支援全国研究交流大会(主催:一般社団法人 生活困窮者自立支援全国ネットワーク)への労福協関係者の参加を促進し、自治体・支援者・研究者などとの交流や、制度改善に向けた連携をはかります。また、労福協で生活困窮者自立支援に携わる相談員・支援員の経験交流の場をつくります。
(3)社会的孤立への対応や就職氷河期世代への支援

 経済的な貧困とともに社会的孤立も広がり、家庭や学校、職場、地域に自分の「居場所」がない人たちが増えています。孤立死、「引きこもり」の長期化・高年齢化、8050問題など、多くの対応すべき課題もあります。また、就職氷河期世代への支援、コロナ禍による就職困難者への対応も含め喫緊の課題です。
 こうした課題について学習会の開催などにより問題意識を深めつつ、政策の実態把握と改善要望を行うとともに、労働者自主福祉としてできることの検討も含め、支援がより充実したものとなるよう関係団体と連携して取り組みます。

(4)フードバンク活動や子ども食堂の普及・促進
  • ① 政府の「食品ロス削減基本方針」(2020年3月31日閣議決定)に基づき、「フードバンク活動の基盤強化」に向けた支援措置の具体化・予算化を国や自治体に働きかけ、公的支援の先進事例を広げます。また、フードバンク団体と連携し、食品寄付に関する責任を免責する制度の創設など、フードバンクへの食品提供を促進するための法整備に取り組みます。
  • ② 食品ロス削減に加えて、生活困窮者自立支援制度や様々な福祉施策との連携や、災害時における食料支援システムとしての活用等の観点からもフードバンクを積極的に位置づけ、省庁横断的な施策の推進をはかるよう、政策・制度改善に取り組みます。また、フードバンク団体のネットワーク等とも連携しつつ、啓発活動や普及・促進に取り組みます。
  • ③ フードバンク活動に関する労福協関係団体の情報交換会を開催するなど、各地の取り組みの経験交流や情報・課題を共有し、相互の連携を深めます。
  • ④ 子ども食堂に関する労福協関係団体の取り組み事例等を情報収集しながら、活動の普及・促進に取り組みます。
(5)介護サービスの体制整備
  • ① 介護労働者を安定的に確保するために、賃金・労働条件を向上し介護職の魅力を高めるとともに、安心して働き続けられる職場環境づくりを進めるよう政策・制度要求を行います。
  • ② 介護離職や家族介護を行う介護者の孤立を防止するために地域における相談体制の整備などを求めます。とりわけヤングケアラー1については、実態把握を行うとともに早期発見と適切な支援に繋げるよう求めます。
     利用者が住み慣れた地域で自分らしい生活を続けることができるよう、医療や介護、生活支援が一体的に提供される地域包括ケアを全国的に推進するよう政策・制度要求を行います。
  • ③ 介護相談事業や、訪問介護事業、認知症見守り活動、認知症患者のための音楽療法など、介護に関わる事業や活動に取り組む地方労福協、事業団体等の情報共有をはかります。
1 家族にケアを要する人がいる場合に、大人が担うようなケア責任を引き受け、家事や家族の世話、介護、感情面などのサポートなどを行っている18歳未満の子ども。(厚生労働省ウェブサイト)
(6)子ども・子育て支援
  • ① 児童虐待防止は喫緊の課題であることから、行政と市民団体の連携による予防や介入、再発防止などの施策の強化を求めます。また、関係団体と連携した啓発活動に取り組みます。
  • ② 待機児童問題の解消に向け、保育施設の拡大やそれを支える保育人材の確保、地域における保護者支援窓口の普及など、持続可能な保育制度の確立を政府に求めます。また、企業主導型などの民間保育事業に対して、保育の質を低下させないよう、保育士の十分な配置、良好な施設環境、賃金・労働条件の向上など適切な運営がなされているか監督するよう国に求めます。
  • ③ 地方労福協が自治体から受託し子ども・子育て支援事業を行うファミリー・サポート・センターの充実など、地域における取り組みを強化します。
(7)退職者・高齢者の社会参加の推進

 高齢者の単身世帯や生活困窮者が急増するなかで、特に雇用における男女の不平等がもたらす高齢単身女性の貧困が社会問題になっているなど、地域での寄り添いや見守りがこれまで以上に必要となっています。そのため、これまで「支えられる側」であったシニア世代が、多様で多彩な能力や技能を地域社会で「支える側」として役割が発揮できるよう環境整備に向けて退職者団体と連携します。
 また、高齢者の健康・生きがいづくりやボランティアなど、様々な地域コミュニティへの参加の拡大に向け、関係団体とともに地域のライフサポート活動と連携した取り組みを進めます。

3.すべての働く人たちへの福利厚生の充実

  • (1)大企業と中小・零細企業の福利厚生制度の格差を是正するため、全福センターと連携し、中小企業勤労者福祉事業促進法制定に向けた政策・制度要求を行います。
  • (2)中小零細・未組織勤労者・非正規雇用で働く人たちの福利厚生の充実をはかるために、こくみん共済coopや労金の各種制度・商品の周知や教育研修などを通じて、共助の輪の拡大につながるよう、加盟団体間の相互連携を進めます。
  • (3)地方労福協においては、地域の中小企業勤労者福祉サービスセンターへの公的支援を自治体に求めるとともに、魅力あるサービスの充実・向上に向けて関連団体およびライフサポート活動と連携した取り組みを促進します。

Ⅳ.人材の育成と財政基盤の確立

〔2030年ビジョン④〕

労働者福祉運動を継承・持続するために、人材を育成し、財政基盤を確立します。

1.運動を継承する人材の育成

  • (1)各ブロックにおける「労働者福祉運動の理念・歴史・リーダー養成講座」、さらには地域(県・地区)での研修・セミナーについて、4団体(地方労福協、地方連合会、労金、こくみん共済coop)が連携し積極的に開催します。
  • (2)中央および地方の加盟団体が主催する研修・セミナーに、積極的に講師団講師を派遣します。
  • (3)中央においては、教育文化協会が実施している大学寄付講座への「労働者自主福祉運動」のカリキュラム化の拡大をはたらきかけます。
  • (4)労働者福祉運動に関わる教育研修素材を作成・更新し、その活用を進めます。

2.労働者福祉運動への女性の参画促進

 労働者福祉運動の継承・発展のためには、女性の参画は不可欠です。中央労福協が主催する会議や研修会等への参画を促進するとともに、加盟団体・関係団体の女性役職員を対象に年1回、学習・経験交流・情報共有を目的とした場を設けます。また、中央・地方労福協における女性の活躍を推進し、女性役員を2030年度までに3割とするための方策について検討を進めていきます。

3.財政基盤の確立

 運動と財政は一体的なものであり、運動を持続可能なものとするため、財政基盤の確立に取り組みます。

  • (1)生活・就労応援基金(愛称「ろうふくエール基金」)について、地方労福協が協同組合やNPO等と連携してコロナ禍に対する生活・就労支援活動を促進できるよう、積極的な活用を呼びかけます。また、恒常的な基金への再編が可能かどうかの検討を行います。
  • (2)連合の「ゆにふぁん~支え合い・助け合い運動」に協力し、中央・地方労福協や関係する市民団体の地域活動を「ゆにふぁんマップ」に登録して「見える化」し、必要に応じてクラウドファンディングの活用も検討します。
  • (3)休眠預金制度による助成事業については、広く市民による公益活動を促進するという当初の目的に鑑み、地方労福協および関係する協同組合、市民団体等の公益活動にも活用できるよう、情報交換をしながら取り組みます。

Ⅴ.組織活動・運営、研修・教宣

1.各種会議の運営 

 コロナ禍を鑑み、状況に応じてオンライン開催などの工夫をしつつ、労働者福祉運動の推進をめざし運営していきます。

(1)機関会議
  • ① 幹事会は年に4回程度開催します。
  • ② 三役会は1~2ヶ月に1回程度開催します。
(2)加盟団体会議等
  • ① 事業団体会議、労働組合会議、地方労福協会議を開催します。相互の情報交換と意思疎通をはかるほか、それぞれの課題に応じたテーマでの討議、研修等も盛り込み、機能的で充実した運営をめざします。
  • ② 事業団体・地方労福協合同会議および労働組合・事業団体合同会議を必要に応じて開催します。また必要に応じてテーマ別の懇談会などを企画します。
  • ③ ブロック事務局長会議を適宜開催します。年1回はブロック会長・事務局長会議とします。(2022年度:北部ブロック、2023年度:中部ブロック)

2.政策・制度に関する「要求と提言」活動

(1)事業団体および地方労福協の要望を集約し、政策委員会で取りまとめを行い、政党および関係省庁に対し要請を行います。
(2)地方労福協が各自治体への要請等を行う際の参考資料として、「要求と提言(自治体要請参考版)」を発行するとともに、各労福協の要請および回答内容を集約し情報共有します。

3.全国福祉強化キャンペーン

 毎年10月・11月を取り組み強化期間とし、共助拡大・利用促進など労働者自主福祉運動を柱に、その時々の社会的課題を設定し、共通テーマで全国的に集中して取り組みます。

4.研修活動

(1)全国研究集会
 時事の社会課題や中央労福協活動方針の主要課題等をテーマ設定し、改善に向けた課題共有をはかることを目的に年1回開催します。

  • ・2022年度は、2022年6月に静岡市(東部ブロック)で開催します。
  • ・2023年度は、西部ブロックにおいて開催予定となります。
(2)ライフサポートセンター実務者・相談員研修・交流会
 相談員のスキルアップならびに好事例共有等の経験交流を目的に年1回以上開催します。
(3)地方労福協事務担当者研修会
 地方労福協の事務担当者を対象に、中央労福協の活動の理解や必要な知識の習得、地方労福協の取り組みの共有、事務担当者相互の交流をはかることを目的に、研修会を開催します。
(4)Web学習会
 月1回程度、活動方針・活動計画に沿ったテーマを設定したWeb学習会を実施します。

5.国際交流活動

 国際労働財団(JILAF)や海外事業・国際活動を研究している関係団体と連携し、労福協活動につながる国際活動の取り組みを進めます。

6.広報活動

(1)ニュースレター
 ニュースレターを毎月1回発行し、中央労福協の活動に関する情報を提供するほか、インタビュー記事、取材記事、連載記事などを盛り込み、内容の充実をはかります。
(2)公式ウェブサイト
 中央労福協公式ウェブサイトを活用し、中央労福協の活動に関する情報やニュースを迅速に発信していくとともに、連載やコラムなど読み物の充実をはかります。
(3)SNSの活用
 日常的にSNSを利用する世代に労福協の取り組みの情報が届くよう、SNSを有効に利活用します。
(4)マスコットキャラクターの活用
 新たに制作した中央労福協マスコットキャラクターについて、全国の労福協で活用できるよう必要な整備を進めます。またSNS、Webサイト、動画、冊子・チラシ・パンフレット、各種ノベルティなどに活用し、広く労福協の認知やイメージ向上の促進につなげます。

7.情報化の推進

(1)ポストコロナ社会を見据えたICTの活用
 引き続き主催する会議・研修会等においてWeb会議サービスや動画配信サービスを有効に活用します。また、ICT2のさらなる活用を進めるとともに、コロナ禍収束後も残していくべき手法などについてポストコロナ時代の活動を見据えて模索していきます。
(2)過去文書のデジタルデータ化
 中央労福協がこれまでに作成・発行した各種の原版(文書、刊行物、議案書その他の紙媒体資料)のうち、1980年頃までのものについては結成60周年記念事業の一環として経年劣化のないデジタルデータへと順次変換しました。引き続き結成80周年に向けて残りの部分のデジタルデータ化を進め、その歴史的資料の保存に取り組みます。
2 ICT = Information and Communication Technology : 情報通信技術を用い、人とインターネット、人と人とをつなげる技術のこと。

8.調査研究活動

  • (1)2023~24年の大学等修学支援法施行後4年の見直しに向けて、「教育費負担軽減の中長期戦略に関する研究会(仮称)」を設置し、高等教育投資の政策目標や教育費負担軽減の中長期戦略策定に向けた調査研究を行います。
  • (2)連合総研の共同研究「労働者自主福祉運動の人材育成等に関する調査研究(2020年8月~2022年6月)」に引き続き参加・協力します。
  • (3)その他の調査研究については、中央労福協の進める運動・政策課題の中で、勤労者のニーズの把握や労働者福祉事業の取り組みにもつながるテーマについて、連合総研・全労済協会等と相談しながら必要に応じて検討・実施します。
  • (4)地方労福協が実施した調査等の情報や成果の共有の促進をはかります。

9.加盟団体等の業務に関わるサポート

(1)労働組合の税務・会計サポート
 労働組合の会計・税務処理や決算処理、確定申告など、様々な場面で活用できるよう、2021年版「労働組合等の会計税務に係る実務マニュアル」を加盟団体、単組等へ普及をはかります。
(2)「現行社会保険制度の要点」の発行
 「現行社会保険制度の要点」(掲示用)を、加盟団体および要望のある単組、団体等へ向け、9月に発行します。ウェブサイト版では社会保険制度の法改正を踏まえ、4月・10月に更新し掲載します。
(3)法人格を有する地方労福協のサポート
 「一般社団法人、一般財団法人、公益社団法人、公益財団法人の制度・運営、会計、税制に関わる必要な情報を適時提供し、法人格を有する地方労福協の適正な法人運営をサポートします。

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