連載

第1回(198号/2月号)

ひたすらに労働者福祉の道を

●ひたすらに労働者福祉の道を

 我が郷土の徳島が育んだ社会運動・労働運動の先達、協同組合の父と言われる賀川豊彦は、中央労福協の『労働者と福祉』創刊号(1960年1月1日発行)に“ひたすらに労働者福祉の道を”とのメッセージを寄せています。
 「———戦前、日本の労働組合運動は、残念ながら福祉活動には熱心でなかった。労働者一人一人の要求に結びつく福祉活動が労働運動のマイナスになるからといって軽んぜられていた。私は常々、これは大変なあやまりだと思っていた。戦後この面の考え方が改められ、混乱の中に生まれた福対協が十年を経て、今ここに生まれ変わることは何にもまして嬉しいことである。労働者自身の血のかよった福祉事業は労福協の協同の場以外からは決して生まれない。強化された真の労働者福祉の道をひたすらに歩んでもらいたいものである———」。賀川豊彦はこのメッセージを残し、“福祉はひとつ”を願いながら、この年の4月23日に71歳で天国へ旅立ちました。

『賀川豊彦学校』開校式(2022.6.25)

『賀川豊彦学校』開校式(2022.6.25)

●はじめに

 今世界は、貧困と差別、環境破壊と気候変動、対立と戦争など混沌とした危機的な状況にあり、日本社会は急激な超少子高齢化により人口減少社会に転じ、貧困と格差が拡大し一億「総孤立」社会と言われる社会的孤立などで、社会病理が大きな課題となっています。そのような中にあって、戦争を“しない”国から“する”国へと転換しようとする動きも加速しています。
 折りしも今年は関東大震災100周年の年であります。賀川豊彦は、翌日の9月2日に大震災を知り、神戸港から船に乗って4日には現地入りし、直ちに救援活動を開始しました。活動拠点と住居を神戸から東京の本所へと移し、救済と復興に全力を注いだのです。日本で初めて、「ボランチィア」という言葉を使ったのも賀川豊彦であり、まさにボランティアの先駆けでありました。この時代の賀川豊彦のさまざまな活動は、現在の国連のSDGs17項目ともつながっているのです。私たちは今改めて、人間の尊厳を第一とした共助・共生の社会へ向け「ひたすらに労働者福祉の道を」しっかりと歩むことが求められていると思います。
 この度「労福協運動の助け合い、支え合いの現場から」ということで、ご指名をいただきました。徳島の地で、チャレンジしたいくつかの取り組みについて紹介させていただくことといたします。

●遅れて、ゼロから出発した46番目の徳島県労福協

 徳島県労福協は、1975年5月13日に全国で46番目の県として設立されました。沖縄と共に最も遅れてスタートした労福協でした。残念ながら、設立後は労組OB役員のみの組織にとどまっていましたが、連合発足を契機に改めて労働組合運動と労働者福祉運動、とりわけ労福協の強化について検討することとなりました。山口・静岡・宮崎県労福協などの先進県を視察・交流させていただきながら、①労働者福祉推進、②雇用就労支援、③福祉・ボランティア支援を三本柱として、さまざまな事業を開始しました。
 開始に当たっては、“職場・地域から人間の尊厳を第一として社会の不条理に立ち向かう自立した社会運動を歴史的使命とする“とした連合評価委員会の提言を受けて、①労働組合の社会性の復権、②労働者自主福祉の復権、③運動体としての復権をめざすこととしました。
 そして運営に際しては、①国連の常任理事国運営とはせずエントリー方式を基本とし、②自己完結型ではなく協働型で取り組み、③何事も実態と意識の調査に基づき実践する、という三点を大切に働く者とその家族のそれぞれのライフステージに対応した総合的な労働者福祉に取り組むこととしました。
 それから20年、全国に遅れてスタートし、ゼロからの出発ではありましたが、現在は、結婚サポートからはじまり、子育て支援、就労支援、若者・障がい者・生活困難者の自立支援、介護サポートにいたるさまざまな事業を実施し、労福協と勤労者福祉ネットワーク、シニアNPO壮生で、約200人のスタッフが働くグループとなっています。
 これらの事業はいずれも県内外の労働者福祉をはじめとしたさまざまな社会運動に関わる多くの人たちとの出会いにより、連携・協働して実現したものであります。私自身もその中の一員として協力活動できたことに心から喜びを感じています。
 その中でも、全国の仲間の皆さんとも共有できればと思っている5つのチャレンジについて、次号から順次紹介させていただくことといたします。お付き合いのほど、よろしくお願いいたします。

久積 育郎 さん

公益社団法人 徳島県労働者福祉協議会 元会長

徳島県阿南市生まれ。1996年5月から、社団法人徳島県労働者福祉協議会専務理事、2008年5月から同会長に就任。2011年5月から財団法人徳島県勤労者福祉ネットワーク理事長に就任し、この間、ファミリーサポートセンター、若者サポートステーション、ジョブ無料職業紹介所、なのはな介護支援センター、勤労者福祉サービスセンター、シニアNPO壮生、NPOフードバンク、社会運動資料センター、NPOこども食堂ネットワークなどの設立に取り組む。現在は、徳島県勤労者福祉ネットワーク理事長、認定NPO賀川豊彦記念・鳴門友愛会理事長を務める。

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