連載

第4回

「米(こめ)どころ新潟」で飯(めし)が食(く)えない! ~生活困窮者支援事業から産まれたフードバンクにいがた~

フードバンクにいがた設立総会・記念フォーラム

 生活困窮者支援事業の相談者の中に、「3日間、何も食べていない、水しか飲んでいない」、その日の食べ物にも困っている人がいた。“米どころ新潟”で飯(メシ)が食えない人がいることを知った。最初の頃は、PS事業の相談員が自前でパンや軽食などの食糧支援をしていたが継続が困難なため、PS事業の支援調整会議の中でお米を持ち寄る運動が提案され、「お米プロジェクト(コメ一合運動)」を2012年に立ち上げた。

 しかし、生米だけでは充分な支援ができず、緊急的な食糧支援をするには、レトルト食品やカップ麺、缶詰類など扱えるフードバンクが必要ではないか、という結論に達した。翌年、労福協の会員である「ワーカーズコープ北陸信越事業本部」、「ささえあい生協新潟」と「労福協」が呼びかけ人(団体)となり、“ヒト、モノ、カネ”など、最も根幹にかかわるシステムが整わない中、見切り発車し、2013年7月に「フードバンクにいがた(以下、FBN)」を設立した。

 こうした不十分なボランティア団体であっても当時、フードバンクは時代のトレンドであり、テレビや新聞など地元のマスコミに何度も取り上げられた。その効果もあり食品の寄贈や提供など、取り扱う量は年々倍増し、シャレではないが“フードパンク”状態となった。

 いま現在もそうした状態から脱し切れてはいないが、FBNは、新潟県における食のセーフティネットを支えるフードバンクシステムを構築し、市民、行政、企業、福祉団体の皆さんと協同して、支援を必要とする人たちに食品が届くような、心豊かな社会づくりをめざしている。こうした活動は、生活困窮者等の生活を少しでも支え、無駄に廃棄される食品ロス削減と環境保全につながっていると実感できる。

 また、この事業を通じた地域づくりや就労支援との結びつきをめざしているが、まだ、十分に実現するまでには至っていない。毎年2週間、県内大学生の福祉体験研修の場として、また、サポステと連携し、ひきこもりなどハンディを背負った人たちの社会参加の場として、食品の在庫管理や配送の手伝いの場を提供するなど実践しているが、将来的には、こうした活動を中間就労の場にもっていくことをめざしている。

 社会的認知度や信頼性の向上のため、2017年にNPO法人となり、地域社会に責任をもった運営等、新たな事業展開の段階に入っている。現在、労福協の会館内にある本部を軸に、新潟地域、長岡地域、県央地域、柏崎地域の4センターで活動が展開されているが近い将来においては、その他の5地域での新たなセンター開設に向け準備が進んでいる。地域で集めた食品をその地域で必要とされる個人・団体に還元する、まさに“地産地消”に近づいている。

サンタに扮して子ども食堂でプレゼント

 2015年5月、新潟県で子ども食堂の1号店ができた頃、FBNの定期総会・記念シンポジウム、「なぜ、いま子ども食堂か?私たちが地域でできることは?」を開催した。
 子どもの貧困対策に取り組んでいる行政関係、民間団体、そしてこれから子ども食堂を立ち上げようとする人たちなど反響が大きく、県内各地から予想外の参加があり、多方面からの関係者と一挙に新たなつながりが生まれた。その後、県内各地に子ども食堂が雨後の筍のように開設され、現在では県内50ヵ所に拡がり、そのうちFBNが食品提供する子ども食堂は34ヵ所になる。

フードドライブ・大学生ボランティア

 行政と連携した活動では、新潟市で児童扶養手当を受給されている、ひとり親世帯の希望者100世帯を厳選し、毎月1回、お米5kg(年間60kg)とその他の食品を合わせて届けるプロジェクトが昨年10月からモデル的に実施された。運営には、FBNをはじめ、新潟市や社会福祉協議会、新潟地域労福協等が関わっている。地元新聞の報道によると、「民間主導の活動を行政が後押しする県内初の困窮者支援事業」、として反響を呼んでいる。こうした活動も相俟って、例年の取り組みである秋のフードバンクキャンペーンの際に新潟県庁内や新潟市庁舎内でフードドライブの開催に協力をいただいている。

 最後に、これからの課題でもあるが、食品ロス問題に対する認知度が向上したためか、取り扱う食品量は増加している。しかし、人や財政は相変わらず脆弱である。しかも食品の管理や保管環境の整備が進んでいないため品質が悪化するケースもある。とくに今年のような高温多湿の夏や寒暖の差が大きいとお米に虫の発生やカビの原因ともなってくる。寄贈された方のせっかくの善意が仇にならないよう、チェック体制も強化していかなければならない。その意味でもFBNの事業と組織は曲がり角に来ている。事業の拡大志向か身丈に合った運営かなど、役員間の考え方に差も見られるが段階的に課題を整理していかなければならない。

山田 太郎 さん

一般社団法人 新潟県労働者福祉協議会 前専務理事

新潟県長岡市生まれ。JP労組新潟連絡協議会議長を経て、2011年6月から6年間、新潟県労福協専務理事に就任。厚生労働省の委託事業として、生活困窮者自立支援事業(パーソナル・サポート)や寄り添い型相談支援事業(よりそいホットライン)を受託。
その過程において毎日の食事にこと欠く相談者への食糧支援の必要性を感じ、民間団体と一緒に「フードバンクにいがた」を立ち上げ、現在も活動に携わっている。

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