2026~2027年度活動方針
はじめに
総務省によると、2025年1月1日現在の日本の総人口は約1億2,433万人、また、2024年の年間出生数は約68.6万人となる一方で、65歳以上人口は約3,600万人に達し、総人口に占める割合は約29%となりました。予測よりも早いペースで少子・高齢化が進行しており、このまま人口減少と少子・高齢化が続けば、日本の経済や社会、生活基盤そのものへの深刻な影響を及ぼしています。加えて、厚生労働省によると、日本における子どもの相対的貧困率は11.5%、およそ9人に1人の子どもが貧困の状態にあり、子どもたちの健やかな成長の阻害が懸念されます。
このような状況の中、中央労福協は貧困や社会的排除のない社会に向けた取り組みや、学びと住まいのセーフティネットの確保に向けた取り組みを進めてきました。2026~2027年度についても、生活保護制度への改善や子どもの貧困の解消、奨学金制度改善・教育費負担軽減の取り組みなどを継続していきます。加えて、持続可能な労福協運動の展開に向けた取り組みとして、2025国際協同組合年を契機とした協同組合運動の振興と労働者福祉運動の発展に向けた取り組み、さらには機関会議運営の見直しや財政基盤の確立に向けた調査・研究に着手していきます。
2025年は戦後80年の節目です。中央労福協の前身組織は当時の社会混乱期において社会課題解決をめざして設立されました。創業の精神である「福祉はひとつ」の意味を今一度確認し合うとともに、2030年ビジョンで掲げた「貧困や社会的排除がなく、人と人とのつながりが大切にされ、平和で、安心して働きくらせる持続可能な社会」の実現に向けて、地域に根差した取り組みが求められます。加盟団体はもとより同じ志を持つ多くの団体・仲間とともにゆるやかにつながりながら、全力で2026~2027年度の活動を進めていきます。
Ⅰ.安心して働きくらせる社会をめざして
〔2030年ビジョン①〕
多様なセーフティネットで、働くことやくらしの安心を支えます。
1.貧困や社会的排除のない社会に向けて
- (1)ディーセントワークの促進と公正なワークルールの確立
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人間の尊厳が守られる労働環境の整備を進めるため、ディーセントワークを確立し、多様な雇用・就業形態で働く人たちもふくめ、すべての労働者が安心して働くことができる社会の実現をめざして取り組みます。
- ① あらゆるハラスメントを許さない職場・地域・社会づくりに取り組みます。
- ② 障がい者が安心と働きがいを持って働ける場を拡充するよう政府に求めます。
- ③ すべての外国人労働者の人権が保障され、日本人と同等の賃金・労働条件が確保されるよう、政策・制度要請を行っていきます
- ④ 地方労福協が実施している高校・中学校への労働問題に関する出前講座など、教育活動の推進に取り組みます。また労働法の周知をはかるため、日本ワークルール検定協会との連携を進めます。
- (2)人間の尊厳が保障される生活保護制度への改善
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生活保護制度の受給資格があるにもかかわらず制度を利用できていない「受給漏れ」の事例が多数存在しており、実際の制度利用率(捕捉率)はわずか2~3割にとどまっています。この背景には、申請を排除・抑制する「水際作戦」や、親族への「扶養照会」の慣行が利用のハードルとなっていることが挙げられます。さらに、「生活保護は恥」といった根強い偏見(スティグマ)が、多くの人々に申請をためらわせる要因となっており、否定的・攻撃的な言説や態度を向ける「生活保護バッシング」や、「外国人は生活保護を簡単にもらえる」などの虚偽の情報がネット上や一部メディアで繰り返し拡散されている状況です。
生活保護は「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する憲法25条を具体化した権利です。人間の尊厳が確保され誰もが安心して利用できる制度へと改善されるよう、引き続き関係団体とともに、取り組みます。- ① 物価高騰による生活保護利用者の経済状況の悪化が予想されることから、生活保護水準を引き上げるよう求めます。
- ② 現行の生活保護基準の検証方法では、支援の必要な人々が「貧困のスパイラル」に陥るおそれがあることから、より実態に即した「新たな検証方法」を早急に確立するよう求めます。
- ③ 支援が必要な時に適切に生活保護を利用できるよう、水際作戦の根絶、扶養照会の運用や制度の改善、制度の周知広報を求める政策要請活動を進めます。また、生活保護への誤解や偏見をなくし、国民の権利であることが浸透するよう、啓発活動に取り組みます。
- ④ 「生活保護法」から「生活保障法」への改正をめざし、人間の尊厳が確保され利用しやすい制度への改善に取り組みます。
- ⑤ 生活保護行政の公的責任や業務拡大・高度化などを踏まえ、正規職員によるケースワーカーを増員するとともに、職員の専門性を高めるよう求めていきます。
- ⑥ 「いのちのとりで裁判」に関連して、真摯な謝罪、未払いの差額保護費の遡及支給などの実現に向け、関係団体と連携して取り組みます。
- ⑦ 貧困の根絶と格差の是正に向けて、「生活底上げ会議」などを通じて、市民団体、法律家などと連携し、広範な運動とネットワークづくりや啓発活動、政策提言などに取り組みます。
- (3)貧困の連鎖・子どもの貧困の解消
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2023年12月に閣議決定された「こども大綱」にもとづいて策定された「こどもまんなか実行計画」(2024年策定)では、貧困率の明確な改善目標や、支援対象の到達目標などがほとんど示されておらず、今後の課題となっています。
子どもの貧困対策は、国連の「子どもの権利条約」をはじめとする国際的な人権基準にもとづき、「大規模施設」中心の支援から、より家庭的で温かな「家庭的養育」への転換が進められています。引き続き、関係団体との連携しつつ取り組みを進めます。- ① 貧困状態にある子どもたちのために、貧困率の明確な改善目標、支援対象の到達目標などを明示した各種施策を講ずるよう要請します。
- ② 家庭養育支援機構と連携し、家庭養護(里親養育)推進のための情報提供を行います。また、中央・地方での学習会の開催を追求します。
- ③ 児童虐待の防止、都市部を中心とした待機児童問題の解消、民間保育事業に関する保育の質の維持に向けた国による適切な監督について、継続した政策・制度要請の実施を検討します。
- (4)多重債務対策の強化
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ネット上のショッピングなどへの依存症や、物価高による生活費の圧迫などを要因として、多重債務に陥るケースが増えています。なかでも、若年層の債務が拡大傾向にあり、金融教育の強化が課題となっています。引き続き労金や関係団体と連携し、多重債務問題解決に向けた取り組みを進めていきます。
- ① 働く人々やその家族のくらしを支えるための総合的なサポート活動として労金が行う、「生活設計」「生活改善」「生活防衛」の3本柱による生活応援運動と連携し、多重債務問題解決に向けた取り組みを進めていきます。また、若年層の金融リテラシー向上のための金融教育の強化を進めます。
- ② 改正貸金業法の定める総量規制の対象外である銀行カードローンに起因する過剰融資について引き続き動向を注視し、啓発活動をはじめ法改正も含めた必要な対応をはかります。
- (5)社会的孤立への対応と自殺のない社会づくり
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少子・高齢化の進展や家族・地域コミュニティの変化により、孤独や社会的孤立が深刻化しており、自殺リスクの増加にもつながっています。「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現」に向け、「自殺総合対策大綱」や「孤独・孤立対策推進法」にもとづく、実効性のある自殺対策に向けて政策・制度要請を行います。
- ① 政府の「孤独・孤立対策に関する施策の推進を図るための重点計画」(2025年5月27日)で示された、児童館やフリースペース、子ども食堂といった、家庭でも学校でもない多様な居場所づくりや、伴走支援を行う体制の構築などについて、取り組みを加速するよう求めていきます。
- ② 「孤独・孤立対策官民連携プラットフォーム」などを通じて情報収集や共有を行うとともに、労働者自主福祉としてできることの検討も含め、支援がより充実したものとなるよう関係団体と連携して取り組みます。
2.学びと住まいのセーフティネット
- (1)奨学金制度改善・教育費負担軽減の取り組み
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2025年3月には大学等修学支援法が改正され、扶養する子が3人以上の多子世帯の学生などには、所得制限なく授業料などを一定額まで減免されることとなりました。しかし一方では大学学費の値上げが進む見通しであり、あわせて、中央教育審議会の議論が進み、大学改革(再編)、特に地方大学の統廃合がすすむ見込みです。教育の機会均等の実現は道半ばであり、引き続き取り組みを進めます。
- ① 高等教育費の負担を「個人の自己責任」とみなす考え方から、「社会全体で支え合う」ものとしてとらえる意識への転換を進めるため、「すべての人が学べる社会へ 高等教育費負担軽減プロジェクト」を軸として関係団体や学生と連携し、「高等教育費負担軽減Webセミナー」の開催などに取り組みます。
- ② 「高等教育費負担軽減プロジェクト」で要請している以下の三点を中心として高等教育費の漸進的無償化を求めて取り組みを進めます。
- a) すべての学生を対象に、大学、短大、高等専門学校(4年・5年)、専門学校の授業料を現在の半額にする。
- b) 大学等修学支援制度の対象を多子世帯や理工農系に限定することなく年収600万円まで拡大するとともに、授業料減免額も拡大する。
- c) 奨学金返済にかかる負担の軽減に向けて、貸与型を有利子から無利子へ、所得に応じた無理のない返済制度や返済困難な場合の救済制度を拡充する。
- ③ 高等教育費の漸進的無償化のため、大学等修学支援法の財源と定められている消費税に限らない幅広い財源の活用などを検討し、提言を行います。
- ④ 給付型奨学金の成績基準(GPA)について、制度の改善に取り組みます。
- ⑤ 「高等教育費や奨学金負担に関するアンケート」の継続調査を実施します。
- ⑥ 労働者自主福祉の取り組みとして、各地域において行政や法律家などの専門家と連携して奨学金に関する相談に対応できるよう、奨学金返済にかかる情報周知をはかります。
- ⑦ 奨学金問題対策委員会の運営のあり方や、今後の高等教育費負担軽減に向けた取り組み方について検討を進めます。
- (2)住宅セーフティネットの拡充
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住宅セーフティネットに関わる諸制度については、生活困窮者自立支援法などの改正法が2025年4月1日に施行され、居住支援の位置づけが強化されるとともに、住宅セーフティネット法の改正法が2025年10月1日より全面施行となり、「居住サポート住宅」の新設や、市区町村の「居住支援協議会」設置の努力義務化がされています。「若者の『離家』」・「若者の自立」・「学び」・「子育て」を支援するための住宅費負担軽減に関する提言― 「ハウジングファースト」(住まいは人権)と「居住福祉」の実現を目指して(以下「提言」とする)」や、「若年層における住宅に関する意識・実態に関する調査(以下「調査」とする)」を踏まえ、「住まいは人権」との観点から、関係諸団体と連携して、福祉・住宅政策の連携や住宅セーフティネットの再構築をめざします。
- ① 「提言」「調査」をもとに世論喚起などの取り組みを進めるとともに、住宅費の負担軽減や住宅セーフティネットの構築に向けて、加盟団体間の連携を進めます。
- ② 以下の二点を中心として、政策実現をはかります。
- a) 失業や収入減少などによって住居を失うおそれがある人に対して、一定期間、 家賃相当額を支給する制度である「住居確保給付金」について、制度の改善・拡充をはかるとともに、だれもが安定して住まいを確保できるように、家賃の一部を公的に補助する「住宅手当制度」(普遍的な家賃補助制度)として、恒久的な制度に再編・拡充する。
- b) 住宅と福祉の連携を強め、住宅セーフティネットや居住支援体制を強化する。 公営住宅などの公的な賃貸住宅を充実させ、家賃の負担を軽くする。
- ③ 全国居住支援法人協議会など、住まいの貧困問題や居住支援に取り組む様々な団体と連携を広げていくとともに、「学びと住まい」の保障を求めて、教育や住宅に関わる関係者の連携やネットワークづくりを模索します。
3.消費者運動との連携
消費生活相談体制を支えてきた地方消費者行政強化交付金が2025年度末をもって終期を迎えることとなります。結果として、消費生活相談体制の縮小後退のおそれと、消費生活相談員の担い手不足が懸念されています。 消費者が安心・安全に生活できるよう、全国消費者団体連絡会など関係団体と連携して、取り組みを進めます。
- (1)消費生活相談員の人材確保をはじめとする消費生活相談体制の維持・強化、消費者被害防止の各種施策に活用できる交付金措置を継続することを求めて、政策・制度要請を行います。あわせて、地方労福協の自治体要請などを通じて、自治体消費者行政の自主財源の拡充を求めます。
- (2) 公正な取引のために、サプライチェーン全体の労働環境について消費者の理解を深める教育や、複数の地方労福協が実施している消費者問題に関する講座などの推進に取り組みます。また、フェアトレード商品などの、人や社会、環境に配慮した「エシカル消費」の促進も進めていきます。
4.持続可能で、安心してくらせる社会に向けて
- (1)大規模災害からの復興・再生と防災・減災の取り組み
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大規模災害における国による支援体制の強化や福祉的支援などの充実などの災害対策の強化をはかるために、「災害対策基本法」などの一部改正がされました。しかし、これまでに全国各地で発生した大規模災害により被害を受けた方々への支援や地域の復興・再生への課題、原発事故に起因する福島県固有の課題、さらには、今後起こりうる自然災害や南海トラフ地震、首都直下型地震などの多発する大規模災害リスクへの備えなど、未だ多くの課題が残されています。これら未解決課題への対応とあわせて、事前の備えとしての「防災・減災」の取り組みも進めます。
- ① いざという時の備えや大規模災害を乗り越える地域コミュニティの再生および平時の福祉と災害時の危機管理の連結、災害に便乗した悪質商法への注意喚起など、災害リスクを最小限に止めるために、関係団体と連携し、啓発活動を進めていきます。
- ② こくみん共済coop「防災・減災運動」の展開を行うとともに、自然災害共済への加入促進を行います。
- ③ 「被災者生活再建支援法」の制度拡充など、大規模災害に関する被災者支援課題への対応についての研究を進め、具体的な提言を行います。
- (2)持続可能な地球環境に向けた取り組み
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気候変動、生物多様性の損失、汚染の3つは世界的危機とされ、相互に連関した地球環境課題です。世界気象機関(WMO)によれば2024年が観測史上最も暑い年となり、世界平均気温が対工業化前比約1.55℃と、単年ではありますが初めて1.5℃を超えたと発表しました。またIPBESの2019年報告書によると、地球上の種の絶滅は加速しており、地球全体の自然は人類史上かつてない速度で変化していると指摘されています。私たちはSDGsの目標達成に貢献し、将来に渡って持続可能な地球環境を繋いでいくため、長期的な目線で取り組みを進めます。
- ① 地球環境課題への取り組みは短期間で成果の出るものではなく、息の長い取り組みが必要との認識から、引き続き学習の機会を設けるとともに啓発活動に継続して取り組みます。
- ② 地球環境課題に取り組む諸団体と連携し、環境省が国民運動として取り組む「脱炭素につながる新しい豊かなくらしを創る国民運動(デコ活)」を広げます。とりわけ食べ残しゼロなど食品ロス削減やICTの活用による移動削減など、参画しやすい分野から取り組みを推進します。
- ③ 気候変動対策や循環型社会の形成に向け、連合、労金協会、こくみん共済 coop、中央労福協の4団体で連携した取り組みを模索、検討します。
- (3)食品の安全、食料・農業問題
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関係団体と連携し、食品の安全の確保に向けて取り組みます。
- ① 食品表示に関する政策・制度改善に取り組みます。
- ② 農業協同組合、漁業協同組合と連携し、食品の安全や食料・農業問題に関する学習、食育を通じた食生活の改善、地産地消の推進などに取り組みます。
- (4)平和問題
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2026年4月には国連において核不拡散条約(NPT)再検討会議が開催される予定です。安心して働きくらすことができる紛争のない平和な社会、核兵器のない社会の実現をめざし、関係団体と連携して取り組みます。
- ① 核兵器廃絶への着実な道筋についての合意、「核兵器禁止条約」の早急な批准、各国政府の責任の明確化を求めて、連合・原水禁・KAKKINの三団体が呼びかけた「核兵器廃絶1000万人署名」に賛同し、取り組みを進めます。
Ⅱ.労働者福祉事業の促進と共助の輪の拡大
~ 労働運動と労働者福祉事業の「ともに運動する」関係の強化
〔2030年ビジョン②〕
労働組合と協同組合が連携・協同し、共助の輪を広げ、すべての人のくらしを生涯にわたってサポートします。
1.協同組合の振興
- (1)IYC2025全国実行委員会における2026年総括を踏まえ、事業団体会議を中心に、協同組合の振興に向けた取り組みを検討します。
- (2)国際協同組合年を記念した取り組みとして、「若者・こどものために大きな応援団をつくるプロジェクト」(代表:村木厚子氏)の企画が進行しており、協同組合やNPOや有志の企業などが広く協働し、未来への投資の意味も込めて若者・子どもを支援する予定です。参加要請を受けて、できる限りの協力を行っていきます。
- (3)第97回メーデー中央大会に向け、事業団体メーデー実行委員会を設置し、メーデーにおける協同組合運動の振興に向けた取り組みを推進します。
2025年は国連が定めた国際協同組合年であり、各協同組合はIYC2025全国実行委員会を結成して様々なイベントを企画・実行し、連合・労金協会・こくみん共済 coopととも記念シンポジウムを開催するなど、協同組合の振興に向けた取り組みを進めてきました。この取り組みが2025年単発のイベントとならないよう、国内外の協同組合との連携も含めて引き続き、取り組みを検討します。
2.労働者福祉事業と労働組合の連携強化 ~「ともに運動する」関係づくり
労働者福祉の運動・事業は労働組合運動から誕生し、今日まで育んできました。協同組合の形態を持つ労働者福祉事業は組合員の出資・運営・利用によって成り立っており、運動の発展には労働組合との連携強化・利用促進が欠かせません。
- (1)労働組合の労福協運動参加を通じた労働者福祉事業への関与促進をめざし、労働組合の労福協運動への積極参加を目的とした「持続可能な労福協運動の展開に向けた取り組み」を進めます。
- (2)地域の労働組合における労働者福祉運動の理解促進・啓発のため、各地方労福協や各ブロックで開催される理念・歴史講座の開催について、講師派遣などの支援を行います。
- (3)各労働組合は、中央労福協・労働金庫・こくみん共済coopの三者で開催する「労働団体トップ訪問」をはじめ、労働者福祉事業の発展に向けて可能な限り協力します。
3.共助の輪を地域に広げる ~ろうふくエール基金の取り組み~
ろうふくエール基金(生活・就労応援基金)は2020年にコロナ禍に対する就労・居住支援事業などの立ち上げなどに対して助成する仕組みとして設置しました。以降、「コロナ禍」という要件は撤廃し、広く地域社会の課題解決に関する取り組みに対して助成を継続しており、その原資の多くを一般会計からの繰り入れや加盟団体からの寄付によって賄ってきたことから、ろうふくエール基金は共助の輪の一つといえ、不安定な社会環境下では、これを維持することが求められます。
- (1) 安定的な運営財源の確保が基金の持続可能性に関する課題となるものの、当面の間、運用を継続します。
Ⅲ.支え合い、助け合う地域共生社会づくり
〔2030年ビジョン③〕
地域の様々なネットワークで、支え合い、助け合う地域共生社会をつくります。
1.ライフサポート活動の推進
ライフサポート活動としてこの間、地方労福協は連合・労働金庫・こくみん共済 coopと連携をしながら、地域住民の様々なくらしのニーズに対応し、困りごとの解決サポートや、居場所・生きがいづくりなど、地域の特性や実情を活かした活動を展開してきました。
- (1)ライフサポートセンター相談員のスキルアップや日常的な課題の解決に向けて、10月頃を目途に「LSC相談員交流会」を開催します。なお、開催形態についてはこの間の参加状況や会議運営全般のあり方に照らして検討をすすめます。
- (2)中央労福協では、中央労福協・連合・労金協会・こくみん共済 coopとの連携を継続し、「地域に根ざした顔の見える運動」の推進のため、ライフサポートセンターが担う機能などについて、引き続き対応策を検討します。
2.地域共生社会づくりに向けて
- (1)「地域共生社会」の推進
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高齢者、障がい者、子育て世帯、外国人、生活に困っている人など、どんな背景を持つ人でも排除されることのない「地域共生社会」づくりをめざします。行政に共助や共生を支えるための公的な責任(共生保障)を求めつつ、協同組合やNPO、地方労福協が連携・協働して、より能動的な主体者として関与していくことをめざします。
- ① 自治体と非営利・協同組織との関係を、単なるコスト削減や下請け型の業務委託ではなく、目的や基準(公正労働基準)を明確にしたうえでの対等なパートナーシップにもとづく協働の関係づくりをめざします。
- ② 重層的支援体制整備事業については、福祉分野をこえたさらなる包括的支援体制の整備について「地域共生社会の在り方検討会議」において議論が進められています。今後見込まれる社会福祉法の改正に向けて「断らない相談支援、参加支援、地域づくり」という本来の趣旨に添って定着・発展できるよう、情報収集・提供など必要な対応をはかります。
- (2)生活困窮者自立支援制度の拡充と生活・就労支援の強化
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生活困窮者自立支援法などの改正法が2025年4月1日に施行されました。施行に伴い、生活困窮者自立支援事業における居住支援の位置づけが強化され、居住に関する相談支援などを行うことや、居住支援事業(一時生活支援事業を改称)が努力義務化されています。引き続き制度の改善に向けて取り組みます
- ① 生活困窮者自立支援制度について、以下の3点を中心として政策実現をはかります。
- a)就労準備支援事業と家計改善支援事業について、全国どこに住んでいても必要 な支援が受けられるよう、両事業の全国的な実施と次期改正における必須事業化を求める。
- b)「人が人を支える」制度を持続させるために、委託契約にあたって支援の質や実績を総合的に評価することや、複数年度契約など、相談員・支援員の雇用の安定と処遇の改善を求める。
- c) 就労支援期間中の生活支援給付、交通費などの実費支給、住居確保給付金の拡充など、支援を実効化するための制度改善に取り組む。
- ② 地域で支える仕組みをつくるために、優先発注などの仕組みを活用し、認定就労訓練事業所が増えるよう行政に働きかけます。労福協においても、先進的な取り組みを紹介しながら、就労準備支援事業や就労体験・訓練・働く場の確保や居場所づくりなどに、労働組合や協同組合、NPOと協力して取り組みます。
- ③ 一般社団法人生活困窮者自立支援全国ネットワークなど、生活困窮者自立支援や就労支援を行っている諸団体との連携を強化します。
- ④ 生活困窮者自立支援や就労支援を行っている労福協、事業団体、関係団体と「生活・就労支援連絡会議」を開催し、各地の実践の経験交流や情報交換、政策・制度改善の検討などを行います。また、労福協で生活困窮者自立支援に携わる相談員・支援員の経験交流の場をつくります。
- ⑤ 生活困窮者自立支援全国研究交流大会への労福協関係者の参加を促進し、自治体・支援者・研究者などとの交流や、制度改善に向けた連携をはかります。
- ① 生活困窮者自立支援制度について、以下の3点を中心として政策実現をはかります。
- (3)フードバンク活動など「食の支援活動」の普及・促進
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フードバンク活動については、物価高のなか、寄付減と利用者増の狭間で物資不足が深刻な状況です。「食品ロスの削減の推進に関する法律」では、食品寄付が「努力義務」にとどまっていましたが、「食品ロス削減推進基本方針」ではフードバンク団体への一定の具体的支援策が盛り込まれました。フードバンク活動の意義は、食品ロスの削減や地球環境負荷の低減にとどまらず、経済的な理由で十分な食料を確保できない人たちの生活支援にも重要な役割を果たしています。引き続き積極的に取り組みを進めます。
- ① 地域のフードバンク活動との連携やフードドライブ、フードパントリーなどを含めた食の支援活動を促進し、地方労福協における取り組みの拡大を進めます。
- ② すでにフードバンク活動に取り組んでいる地方労福協については、地域生協や農業協同組合、漁業協同組合、各地域の関係団体、NPO、市民団体などネットワークの範囲を拡大し、取り組みを強化します。
- ③ 労福協関係団体の各地の取り組みの経験交流や相互の連携を深めるとともに、新たにフードバンクとの連携に取り組む地方労福協への情報提供などに取り組みます。
- ④ 「食品ロス削減推進計画」を策定していない自治体に対してはその策定を要請するとともに、同計画にフードバンク団体の基盤強化に向けた具体的支援策を盛り込むよう働きかけます。
- ⑤ 「食品ロスの削減の推進に関する法律」にもとづき策定されている「食品ロス削減推進基本方針」に、フードバンク団体への具体的支援策についてさらに充実させるよう、政府に求めます。
- (4)子どもの居場所づくり
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子ども一人ひとりの声に耳を傾け、子どもの視点に立った抜本的な対策の推進が重要です。「子どもの居場所づくり」をテーマにした「全国研究集会」において得られた知見や提言も活かしながら、関係団体と連携して取り組みを進めます。
- ① 地域において子どもの居場所づくりに取り組む団体との協同の取り組みを進め、子ども食堂など「子どもの居場所づくり」を念頭に置いたイベントの開催を追求します。また、子ども食堂に関する労福協関係団体の取り組み事例などを情報収集しながら、活動の普及・促進に取り組みます。
- ② 自治体に対しては、孤独・孤立対策として、児童館やフリースペース、子ども食堂といった家庭でも学校でもない多様な居場所づくりのためにNPOなどの取り組み支援などを求めます。
- (5)退職者・高齢者の社会参加の推進
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高齢期を充実させ、地域で元気にくらせるようにするために、社会保障制度、年金、医療・介護、税制、雇用など、退職者・高齢者が安心してくらせる制度を求めて、退職者団体と連携して取り組みを進めます。
- ① 全国高齢者集会実行委員会主催の「全国高齢者集会」に参加し、今日的な課題について共有をはかるとともに、退職者団体と適宜必要な意見交換を行います。
- ② 高齢者の健康・生きがいづくりやボランティアなど、様々な地域コミュニティへの参加の拡大に向け、地域のライフサポート活動と連携した取り組みを進めます。
3.誰一人取り残さない社会の実現に向けた取り組み
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ろうふくエール基金の活用により、地方労福協を通じた地域の社会課題解決の一翼を担ってきましたが、中央労福協独自の取り組みとしては継続した地域支援は行っておらず、不安定な社会を生きる人々に共助の輪をさらに拡大する必要があります。
- ① 一般財団法人日本民間公益活動連携機構(JANPIA)が実施する「休眠預金等を活用した助成事業」について、資金分配団体として応募することについて調査・研究を行い、必要に応じた体制整備を進めます。
- (2)すべての働く人の平等な環境をめざして
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- ① 中小零細・未組織勤労者・非正規雇用で働く人たちの福利厚生の充実をはかるため、労働金庫やこくみん共済 coopの各種制度・商品の周知を行うとともに、政策・制度の取り組みを推進します。
Ⅳ.人材の育成と財政基盤の確立
〔2030年ビジョン④〕
労働者福祉運動を継承・持続するために、人材を育成し、財政基盤を確立します。
1.運動を継承する人材の育成
- (1) 各ブロックにおける労働者福祉運動に関する理念・歴史などに関する講座の開催を引き続き促進するとともに、加盟団体が主催する研修・セミナーなどに、積極的に中央労福協講師団講師を派遣します。
- (2) 中央においては、教育文化協会が実施している大学寄付講座への「労働者自主福祉運動」のカリキュラム化の拡大を働きかけます。
- (3) 労働者福祉に関わる教育研修素材(スライド版)を更新し、その活用を進めます。
2.労働者福祉運動への女性の参画促進
労働者福祉運動の発展と継承のためには、幅広い世代・層の参画が不可欠であり、女性参画の取り組みを継続する必要があります。
- (1) この間開催してきた「女性のひろば」を引き続き企画し、労働団体・事業団体・地方労福協の女性役職員の連携強化と社会課題の学習に取り組みます。
Ⅴ.組織活動・運営、研修・教宣
1.持続可能な労福協運動の展開に向けた取り組み
中央労福協では各団体にとって自組織の課題ととらえられる運動を訴求しきれていないことから、会議や集会・学習会などについて出席が低調な組織が少なくありません。加えて、中央労福協の運動の幅は広く、それに比して会議の数なども多いことから、効果・効率的な運営が欠かせません。加盟団体との接点を増やし、よりよい社会を築くための結節点となるべく、持続可能な労福協運動の展開に向けた取り組みを展開します。
2.各種会議の運営
前述の「持続可能な労福協運動の展開に向けた取り組み」を踏まえ、以下のとおり会議を運営していきます。
- (1)幹事会は年2回程度開催することとします。
- (2)(1)とは別に、従来の総会非開催年度における加盟団体代表者会議は幹事会の開催をもってこれに代えます。
- (3)三役会は1~2ヵ月に1回程度開催します。
- (4)加盟団体の会議(事業団体会議、労働組合会議、地方労福協会議)はそれぞれ年数回開催し、機関会議に提案する事項の事前意見交換や交流・懇親、学習を中心とした、社会運動の展開に資する内容を原則とします。
3.政策・制度実現に関する申し入れ
この間、事業団体・労働団体を中心に政策要請項目を集約し、政策委員会にて精査したうえで、政党および関係省庁に対し要請を行ってきました。また、地方労福協が各自治体への要請などを行う際の参考資料として、「自治体要請参考版」を発行するとともに、各労福協の要請および回答内容を集約しデータベースに登録してきました。
- (1)2026~2027年度についても本取り組みを継続します。
4.全国福祉強化キャンペーン
労働者福祉運動を前進させるため、10月・11月を取り組み強化期間とし、その時々の社会的課題を設定して、全国で集中して取り組みます
5.研修活動
- (1)全国研究集会
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- ① 時流にあわせた社会的課題をテーマに設定し、NPO、公益団体、市民団体、民間企業、研究者、専門家などから実践者を招き、毎年1回開催します。
- ② 2020年以降に導入したYouTubeLive生配信による全国からのオンライン参加、地域の住民や学生なども参加可能な一般公開形式など、「開かれたスタイル」の継続により組織内外に広く課題意識の共有をはかります。
- (2)オンライン連続講座
以下の趣旨で、オンライン連続講座を行います。
- ① 高等教育費の負担について「個人の自己責任」ではなく「社会全体で支える」ものであるとの意識変革を進めるため「高等教育費負担軽減Webセミナー」を引き続き開講します。
- ② 外国人市民の権利擁護と共生社会づくりに向けた認識を深めます。
- (3)Web学習会
- 月1回程度、活動方針・活動計画に沿ったテーマを設定したWeb学習会を実施します。
6.国際交流活動
労福協における国際交流活動は、コロナ禍以降は主に国際労働財団(JILAF)と連携し、労働者福祉運動の歴史や役割、将来の展望について、労働運動の発展をめざす海外の労働組合リーダーと意見交換を行ってきました。
- (1)2026~2027年度についても、JILAFからの要請に応じて交流活動を継続します。
- (2)2024年度のSSEオンライン連続講座実施の際、協同組合運動の発展には先進国の取り組みから知見を得ることの重要性が有識者より指摘されました。2025年が国際協同組合年であり、これを契機とした国外の先進事例を学ぶ場の企画に向けて、研究者との海外予備視察の実施を検討します。
7.広報活動
- (1)公式ウェブサイト(2025年9月リニューアルオープン)、機関紙「NEWS LETTER」、メール配信サービス「きょうちゃん通信」、動画配信サービス、各種SNS、その他時代やトレンドにあわせた適切なサービスや方法を活用し、労福協の認知度向上に努めます。
- (2)デジタル化が進む時代情勢に鑑み、機関紙「NEWS LETTER」の発行頻度、発行媒体のあり方について検討し、必要な対応を進めます。
- (3)メール配信サービス「きょうちゃん通信」について、組織内外を含めた読者拡大に向けて検討を進めます。
- (4)2021年に誕生した労福協のマスコットキャラクター「きょうちゃん」を引き続き様々なコンテンツ、グッズ、シーンなどで活用し、労福協のブランドイメージ向上につなげます。
8.DX時代にあわせたICTの活用
- (1)Web会議サービスや動画配信サービスについて、引き続き主催する会議・研修会・イベントなどで有効に活用します。また、日々進展するICTの動向を注視し、有用な技術・サービスについては必要に応じて導入・活用し、そのメリットを活かしていけるよう努めます。
- (2)文書保存規程にもとづき、今後作成する会議資料、研修資料などはデータによる作成・配信に努めてペーパーレス化をさらに促進するとともに、紙媒体として現存している過去資料(文書、刊行物、議案書その他中央労福協が作成、発行した紙媒体資料など)についても順次データ化を進めます。
9.調査研究活動
これまで全労済協会で行われていたシンクタンク事業のうち「勤労者福祉研究会」および関係する事業について、2025年6月にこくみん共済coopより業務受託しました。これを受けて「くらし×福祉みらいプロジェクト」を設置し、2026~2027年度についてはそのもとに「あるべき被災者支援戦略の策定(仮称)」をテーマとする研究会を立ち上げて取り組みを進めます〔資料16〕。
10.加盟団体などの業務に関わるサポート
加盟団体がその業務を円滑に遂行できるよう、必要に応じて有用な情報や資料を提供します。とりわけ、下記に掲げる取り組みについては、今後も継続して積極的に対応します。
- (1)労働組合の税務・会計サポート
- 2024年に刊行した「労働組合 会計・税務の基礎知識」の引き続きの販売促進を継続するとともに、税制改正・法改正などがあった場合には内容の変更・差替、改訂など必要な対応を行います。
- (2)「現行社会保険制度の要点」の発行
- 「9月に、最新版の「現行社会保険制度の要点(掲示用)」を発行し、加盟団体や希望される単組・団体などに配布します。ウェブサイト版については、社会保険制度の法改正を反映させるとともに今後の活用について検討を行います。
- (3)法人格を有する地方労福協への情報提供
- 一般社団法人、一般財団法人、公益社団法人、公益財団法人の制度・運営、会計、税制に関わる必要な情報を適時提供します。